北海道洞爺湖町出身で札幌在住のシンガー綾野ましろ(年齢非公表)が、コンセプトアルバム「early days」を13日にリリースした。14年10月のデビュー前に北海道で制作された楽曲と当時の秘蔵音源などを収録した、原点が詰まった1枚を世に送り出した綾野が、日刊スポーツの単独インタビューに応じた。自ら曲に解説をつけた“ライナーノーツ”を含め、今の思いを語った。

 -どういうアルバムになった?

 綾野 私のデビュー以前の初期の頃を、一気に詰め込んだ1枚です。日々、生活する中で歌手になりたいと思っていたこと、将来の希望、不安…今の私の原点になっている、根本の気持ちがこもっています。安田史生プロデューサーとの出会いがなかったら、これらの曲は生まれていません。デビューさせてもらった今、原点を思い出すきっかけとなる、大切な1枚でもあります。

 -どのように聴いてほしい?

 綾野 今の、ましろを知ってくれている人は、北海道で誰にも知られていない中、歌っていた当時の私を知るきっかけになると思います。アニメの主題歌を歌わせていただく時は、物語の主人公にフォーカスを当てて、感情を入れて歌うことが多いのですが、今回の「early days」は、そこから離れて、自分の気持ちに正直になれたら…という曲たちです。

 -楽曲を作っていた当時は、どんな女の子だった?

 綾野 歌手になりたいと思ったのは、本当に小さい時…ピアノを始めた4歳から「歌を歌う人になりたい」と言っていました。両親は「そのうち、夢は変わるだろう」と思っていたんです。高校の時、友だちは大学進学を目指し、モチベーション高く取り組んでいたんですが…私は違った視点で物事を見ていたので、なじめませんでした。「夢ばかり見て」と見られていると思って…。負けたくなくて、札幌に出て路上ライブをして、ライブハウスを自分でブッキングして…という生活が何年かあった。路上ライブを一生懸命しても(聴衆が)ライブハウスに来てくれるか分からない。歌っていて楽しいけれど…歌っていない自分は存在価値がないと意地になってもいました。何のために歌うのか分からないけれど、歌い終えると、そこが自分の居場所だと感じた。その繰り返しの中で、立ち直ることができて、歌って楽しい、表現したいと思えたんです。前に出て、後ずさりして…その行ったり来たりがあったんです。そういう思いがなかったら、今まで続いていないと思いますし、今思うと、その時期が良かったんです。だから「early days」の曲は、迷いながら未来への希望を持った、揺れる思いが込められた歌詞が多いんです。

 <日刊版ライナーノーツ>

 (1)「whitefeel~overture~」 スタートとして、かわいらしく壮大な楽曲になっています。

 (2)「WinglessDiver」 綾野ましろという今のアーティスト名になる前、「Mashiro」名義で出したプレデビュー曲で、14年5月にアニソン専門誌「リスアニ」の付録としてつけられたCDに収録されました。安田プロデューサーと出会って、1年くらいの頃の曲です。ちょっとした勇気を持つことを描いています。洞爺湖町から札幌に出るのも1つの勇気でした。路上ライブも知らない方に見ていただくので、恥ずかしいような、怖いような…そういう機会は(洞爺湖町では)なかなかありませんでしたが、その積み重ねで未来は変わりました。1つひとつ、踏み出してもらいたいという気持ちを歌わせていただきました。

 (3)「刹那クロニクル」 こちらも綾野ましろ名義で出したプレデビュー曲で、14年8月に「リスアニ」の付録としてつけられたCDに収録されました。自分の存在理由が一瞬、一瞬の積み重ねで価値になっていく、という意味を込めました。安田プロデューサーが初めて書き下ろしてくれた楽曲で、「あなたを見ていると、今を生き急いでいるように見えるんだよね」と言って、渡していただきました。自分自身、そうは思っていなかったんですが、人との出会いで、人生も変わるんだと曲をいただいた時に思いました。人生って、考えると長いと思うかも知れないけれど…地球から見ると人生は一瞬。たとえ、誰かと別れても、恥じないように生きていたら、成長したと言ってもらえて、また胸を張って出会える日が、きっと来る…この楽曲と出会えて、そう思えたんです。

 (4)「re:rain」 雨が降りだして、やんで、その後…というストーリーです。ミステリアスで、ちょっと力強い楽曲ですが、自分に合っていると思います。デモを歌った時点で、大事にして、いつかファンに聴いてほしいと思った1曲です。やまない雨はないし、悲しい気持ちも次につながっていく意味が込められています。私の楽曲には、そういうものが多いですし、それが自分のカラーだと思っています。

 (5)「春想の街」 北海道に四季があるすばらしさを、北海道から時折、出る今になって、さらに実感しています。北海道は空気がおいしいですが、寒い…その中で、寄り添って桜が咲くのを待つ。それって、実は当たり前のことじゃないとも気付かされました。アニソンを敬遠する方にも聴きやすい1曲だと思います。

 (6)「RAYOFLIGHT」 ライブで映える1曲だと思います。応援してくれているファンに、生活する中での紆余(うよ)曲折を乗り越えて、ましろの音楽と一緒に歩んでいこうね、という思いを込めています。私からの、不器用ながら周りに感謝している気持ちを込めたのは、応援してくれている人にも、周りの人に対して同じように思ってほしいから。ネガティブな歌詞ながら、曲は明るいんです。ライブではやったことがないので、どんなふうになるか楽しみです。

 さらに、昨年11月3日に都内のTSUTAYA O-WESTで東京初ワンマンライブ「1st Anniversary One-man Live 2015~lycoris」で歌った「idealwhite」、「燐光」、「vanillasky」のライブ音源も収録した。最後に、ファンにメッセージを送った。

 綾野 アニメの主題歌、テーマソングとは違うけれど、このタイミングで自分の内面…こんな時期もあったと伝えられたらいいと思いました。歌手になりたいという変な自信があって歌っていたけれど、自分は順風満帆な人ではないと、ネガティブな方向に向かうこともあった。才能の固まりのような人は、また違った人生を歩むのかも知れないけれど…私は多くの人に支えられて成り立っていると、メジャーデビューした今、あらためて実感しています。自分はウソはなく、好きなことをやらせていただいています。アニメも、アニソンも、日本独特の文化も好き…今後も、その方向性が大きく変わることはないと思っています。今、札幌と東京を往復する生活をしていますが、今後も続けたい。東京は楽しいけれど…いろいろ考えることも多いです。札幌に帰ると、1人で殻に閉じこもることが多いんですが(笑い)リフレッシュになるし、そこで曲につながることも多いです。北海道から音楽をやっている人がいることを、日本、世界へと発信していくことで知ってほしいし、北海道の人にも、もっと綾野ましろを知ってほしいです。

 4月9日に東京・日本橋三井ホールで、誕生日の同23日には札幌CUBE GARDENで2回目のワンマンライブを行う、綾野の16年は、北海道から東京、日本、世界へと走り続ける1年となりそうだ。【村上幸将】

 ◆綾野ましろ(あやの・ましろ)北海道洞爺湖町出身。大泉洋、安田顕、戸次重幸、音尾琢真、森崎博之が組む演劇ユニット、TEAM NACSらが所属するクリエイティブオフィスキューに所属。同事務所の音楽プロデューサー安田史生に才能を見いだされ、14年放送のアニメ「Fate/stay night」オープニング主題歌「ideal white」でデビューし、オリコンデーリーランキング6位に入った。昨年は8月28~30日の3日間、さいたまスーパーアリーナで8万1000人を動員した、世界最大級のアニソンフェス「アニメロサマーライブ2015」にも、新人歌手ながら初出演。Jポップからアニソンまで幅広く歌っている。座右の銘は、才能がなくても努力をすれば才能ある人に肩を並べられることを意味する四字熟語で「駑馬十駕(どばじゅうが)」。