「あぶない刑事」シリーズ30年のラストを飾る映画「さらば あぶない刑事」(村川透監督)が今日30日、ついに公開初日を迎えた。日刊スポーツでは、28日付紙面にタカこと鷹山敏樹役の舘ひろし(65)、ユージこと大下勇次役の柴田恭兵(64)、真山薫役の浅野温子(54)、町田透役の仲村トオル(50)の“あぶ刑事レジェンド”対談を掲載した。その続編として、紙面には未掲載の、ディープな“秘蔵トーク”を、公開初日にお届けする。

 --格好良さとは

 柴田 僕と舘さんの世代的なこともあると思うんですけど、その頃に(国内の)ファッションブランドが出てきたり、世の中が格好良く動きだした。僕が高校や大学の時に、先輩が見た目も格好良くなって…でも、本当の格好良さって何だろうと、皆、やっぱり思うわけですよ。若いから、表現の方法としてギンギンでバリバリで突っ張っていくぞ、っていう人もいれば、違う方向にいった人もいた。僕は格好良さ(を考え、追及するの)って、すごい楽しかったし、面白かったんです。格好良いって、何て格好悪いんだろうというのもあったんですけども…格好良いって、いいんじゃないかとずっと思ってた。その時に、僕の思っている格好良さと、また違う格好良さを持つ舘さんと出会えて、すごいすてきだったし面白かった。お互いに思う格好良さを認めていたし…時代的なこともあった気がしますね。

 舘 僕はね…映画って、スクリーンにドンと出てきて、真ん中に立った時「格好いい」と言わせたら、あとは、もうどうでもいいと思っていたの。だから、あまり芝居に興味がなくて。俳優ってのは、大したことはないな、と思って今まで来てしまって…俳優としての進歩がなかったな、みたいなことを今は感じているんですけど。恭サマが言った“薄っぺらい格好良さ”に、俳優生命を懸けたって言うかさ…そういう俳優がいたって、いいんじゃないの? お芝居のお上手な俳優さんは、いっぱいいらっしゃるし、どうしたって勝てないんだもん。

 柴田 でも、今回の菜々緒ちゃんと舘さんの2ショットなんかさ…他の日本の俳優さんじゃ持たない、成立しないと思います。本人は「セクハラだ」って言ってましたけど(苦笑い)

 --舘と柴田の関係性は、30年でどう変わった?

 浅野 私は今、たっちゃん(舘)が恭兵ちゃんに、恭兵ちゃんがたっちゃんに近寄っているのがものすごく印象的で。お互いに「ないもの」って言ってたんだけど…本人たちは、きっと分かんないと思うけど、いつのまにか、お互いがお互いのいいところを、何の気なしにやっているのが、見ていてすごいなと思う。

 舘 俺の芝居ってさ、恭サマ(柴田)にすごい影響を受けていて…特にコミカルなところは。オンコ(浅野)は多分、それを感じたんじゃないかな?

 柴田 確かに…コンビじゃないんですけど、他のドラマで違う役者さんともやっていますが、舘さんとの(共演)時は、任せられるというか…。

 舘 任せられないというか、任せられるというか…任せられない微妙さがね(苦笑い)

 柴田 (他の役者との時は)自分が、もっと良くしよう、頑張らなきゃっていう思いが少しあるんですけども、舘さんと一緒だと、舘さんのところは、しっかりやってくださるので、本当に安心…まぁ、30年たってからですけど(苦笑い)

 仲村 新しい(魅力)みたいなことで言うと、最近、70年代の原宿を写した写真集で、24歳の舘さんを発見して。

 舘 オートバイに乗っているヤツ?

 柴田 危ないでしょ(苦笑い)

 仲村 うん。でも、あれから40年たって、時代や流行が、ものすごく周りを流れていっている間、(舘と柴田、「あぶ刑事」は)ずっと格好いいというポジションに立ち続けている。そこから動かない。追いかける側から見ると、格好良く見えるな、というところもあるんじゃないかと思ったりもします。あとは…。

 柴田 俺の力だろ?

 仲村 それは若干だと思います(笑い)

 舘 でも、あるんだ?

 柴田 それは、若干はあってほしいんですけど(苦笑い)

 仲村 舘さんと恭兵さんが、この30年間…アウトサイドに行こうとしたり、日が暮れて夜になってから歩き始めるように、日の当たるメーンストリートの真ん中を、あえて歩かない時期があった。それによって、不在の存在感というか…。何回かあった「あぶ刑事」のブランクも、そんな舘さんと恭兵さんのキャラクターに通じるところがあって「いないなぁ」って寂しく思ってもらったり、ちょっとハングリーな気持ちになってもらえたりというのが、「あぶ刑事」が30年たっても魅力がある源だったりするのかな、と想像したりしています。

 --30年で1番、成長した人、変わっていない人

 浅野 トオルが昇進したし、すごい変わったなと思う。本人自体も、私たちが年を取るより、トオルが20歳から30年って、すごい大きいと思う。

 柴田 50歳だもんね。

 浅野 私、信じられない。素直に変わったなと思います。

 舘 (仲村は)役どころではトロい動物。リアルには天才。最初から恭サマと一緒に、20歳そこそこでアドリブで応酬し合うのよ。芝居のテンポやリズムが、すごくいい。この3人(柴田、浅野、仲村)は、本当に天才。みんな、何となく変わっていない形で成長してるのがいい。ブランドものでも…例えば、ポルシェも、変わっているけど基本は変わっていない、という、そこに魅力がある気がする。

 柴田 (仲村は)やっと気付いたか、みたいな顔をしていますよ(苦笑)

 仲村 僕は「あぶない刑事」が始まった時点で、俳優を始めてから1年たっていなかったんですよね。1歳になっていなかったというか…その時に舘さん、恭兵さん、浅野さん、中条静夫さん、ベンガルさん、村川透監督、(亡くなった)長谷部安春監督らと出会ったんです。(俳優の)0歳児が1年間、51本のテレビシリーズをやったということは当然、自分で把握できないほどの影響を受けていると思う。

 柴田 終わった後の打ち上げくらいしか、お酒を飲むことはないんですけど…よく、トオル君に向かって、僕やベンガルさんたちが、いろいろなことを説教するんですよ。でも、みんなトオルのことが好きだったんですよ。かわいかったし、素直だったし、絶対すてきな役者になると、みんな思っていたから…。思い起こせば、説教をじっと耐えて聞いていたなぁと。

 舘 僕なんか、説教もしないし…ただただトオルに嫉妬。ライバルみたいに「う~ん、トオルめ。何でアイツ、あんなにうまいんだ」って。本当に口が裂けても言えないけど、実は僕は結構、トオルの影響も受けている。本当にすごいなと思うもんね。

 仲村 これから1番、変わる可能性があるのは、舘さんだと僕は思います。(12日の完成披露試写会や取材などで)「いまだに女のことばかり考えている」とおっしゃっているのを聞いて、まだまだのびしろがあるなと思った(笑い)

 柴田 トオルは「3人は俺が育てた3人」とか思ってると思う。よそに行くと「うるせぇんだ、あの2人」とかって。

 舘 言ってると思いますよ(苦笑い)

 仲村 思ってるわけないじゃないですか! 育ててもらったって言ってるじゃないですか。僕はよく「『あぶ刑事』って何ですか?」って聞かれると…恥ずかしながら「ふるさと」という言葉を選んでしまうんですよ。本当にそういう場所なんです。もちろん、恥ずかしいこともありますけど、そういう感じですね。

 --初代課長・近藤卓三役の中条静夫さんについて

 舘 多分ね…温かく見守ってくれる、オヤジみたいな感じ。

 柴田 (「あぶ刑事」が)ヨーイ、ドン!の頃は、扇の要でしたね。僕たちが弾けすぎた時に、グッと締まる一言を言ってくれるし。かといって、中条さんも細かい、かわいらしいことをなさったり。

 舘 全て分かっているっていう感じだったね。近藤課長のまま、大きく受け止めてくれた感じだったな。

 浅野 全て許してもらっていたので。(横浜港署署長・松村優子役の)木の実ナナちゃんがいて、中条さんがいて、その間を私がチョロチョロして…。ちょっとヤバいと思ったら、逃げたら許してもらっていた。守ってもらっていましたよね。

 仲村 初めてお会いした時「君は何年生まれ?」と聞かれて「昭和40年です」と言ったら「昨日じゃねぇか」って(笑い)舘さんがおっしゃったような、父性というかオヤジな感じがありましたね。「さらば あぶない刑事」の台本読んだ時は全然、意識していなかったんですけど、鷹山と大下の(定年までの)あと何日かを心配する町田の中に(課長職が)移った町田の中に、父性のかけら、においを感じました。それは中条さんが残してくれたものというか…セットはずいぶん変わりましたけど、港署のイスに残していったものが、僕…町田に良い意味で気配、においが残ったのかなと感じました。中条さんからは全然後輩だし、世代も全然違うんですけど。

 柴田 最後の演説のシーンで、僕がトオルに「(タカとユージ)2人のことを思ったら…思いを込めて涙を流せ」って言ったんですけど…そんなことはなく(苦笑い)あれは、あのくらいの芝居で良かったんですけど。中条さん(演じた近藤課長)に対するオマージュだったり、スタッフで亡くなった方を全部含んでの、別れの思いの演説で良かったです。

 仲村 あのシーンが撮影初日だったんですけど、現場に行ったら、いきなり恭兵さんにそう言われて…僕は正直、聞いた瞬間は「ここで?」と思った。ミスリードのためのお芝居だと思った。しばらくしてから、鷹山と大下(への思い)じゃなくてもいいんだって思えた。俳優0歳児の僕を許してくれて、見逃して、育ててくれた…でも、この現場にいない、たくさんの人たちのことだったら、俺はウソじゃなくて(芝居が)できるなと思った。きっかけは、恭兵さんが言ってくれたのは、かなりありました。

 1986年(昭61)10月5日に、日本テレビ系で放送が始まってから、約30年。「あぶない刑事」は、「さらば あぶない刑事」で、その歴史に終止符を打つ。そのことを踏まえ、舘は「あぶ刑事」とは何かを、熱く語った。

 舘 日本の刑事ドラマで初めて悲壮感を否定した新しいドラマ。この4人でしかできないユニークで、宇宙に1つのもの。4人が集まると怖いものはない。文化的大事業だと思うよ。

 日本の刑事ドラマを、それまでの悲壮感に満ちたものから、コミカルでおしゃれな要素も含めた、より幅の広いエンターテインメントに大きく転換させ、後の刑事ドラマにも大きな影響を与えた「あぶない刑事」。その集大成となる映画「さらば あぶない刑事」が、世に送り出されることは、「あぶ刑事」を30年にわたって追い続けたファンはもちろん、「さらば あぶない刑事」で初めてシリーズを知った人にとっても、その意義を感じ、あらためて歴史をさかのぼって作品を見る契機でもある。「あぶない刑事」は2016年1月30日、永遠となる。【村上幸将】