女優仲間由紀恵(36)の主演舞台「放浪記」の千秋楽公演が1月31日、福岡・博多座で行われた。森光子さん(享年92)がライフワークにした舞台を継承する形で、昨年10月から公演を重ねてきた。東京、大阪、名古屋、福岡の4都市を駆け抜け、上演回数は105回に達した。この日は、歓声と大きな拍手に応えて登場したカーテンコールで目を潤ませていた。

 仲間は、鳴りやまない拍手の中、出演者34人と舞台袖にいたスタッフに目をやると瞳が潤んだ。「とても高い高い山に、みんなで挑戦してまいりました。105公演を乗り越えられたのは皆さんの笑顔と拍手のおかげ。今日を迎えられて感謝の気持ちでいっぱいです」と話して深々と一礼すると、拍手はさらに大きくなった。

 森さんが2017回演じた名作という重圧も感じながら舞台に立ち続けた。体力の維持が大切と考え、公演に備えて取り組んできた筋力トレーニングを、公演期間中はさらに負荷をかけて行った。気力の充実のために「疲れを取る対処を常に意識していました」と、岩盤浴で気分転換したり、酸素カプセルにも入って体調を管理した。

 舞台公演で地方に長期間滞在したのは初めて。大阪では共演者と一緒に立ち飲みも初体験した。共演の村田雄浩(55)らが口をそろえて「仲間さんはタフ」と話すなど、心身ともに充実の日々を送った。

 昨年12月初め、森さんが眠る京都・帰白院を訪れて上演を報告した。夫の俳優田中哲司(49)も昨年12月下旬に名古屋で観劇した。「すごく泣いたみたい。一番楽しんだお客さんだったかもしれませんね」。

 森さんの思いも受け継ぎながら「仲間版」も意識した。見せ場の1つだった「でんぐり返し」を側転に変えて観客を楽しませた。

 105公演で12万人を動員した。「森さんに比べたら、10合目まである山の、まだ1合目にもたどりついていません」と話したが、「それでも、いつの日か挑戦できる機会があるように日々精進していきます」と再演に意欲も示した。取材陣に「ママになっても放浪記ですか」と聞かれると「まだそこまでの計画はないですけど、そうなったらすてきなこと。続けられたら、ありがたいですね」と笑顔で答えた。【大友陽平】

 ◆放浪記 原作は、作家林芙美子さんが自分の日記をもとに奔放に生きる女性を描いた自伝的小説。61年に菊田一夫氏の作・演出、森光子さん主演で初演。その後、三木のり平さんの演出に変わり、09年に森さんが単独主演国内最高となる公演2017回を記録。「前人未到の功績」として国民栄誉賞を受賞した。