聴く人の心をえぐる歌詞と歌声で、宮部みゆき×小泉孝太郎のドラマ主題歌などを手がけたシンガー・ソングライター、近藤晃央(29)が、セカンドアルバム「アイリー」(4月27日発売、アリオラジャパン)をリリースする。大型タイアップで耳なじんだ曲から、「引きこもっていたころの自分に書いた」というパーソナルな曲まで、今表現したい思いを詰め込んだ。不登校時代のことや、外に出たことで見つけた音楽への情熱など、ざっくばらんに語ってくれた。

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 -近藤さんといえば、宮部みゆき原作ドラマとの相性が抜群な印象。今回のアルバムには「名もなき毒」(13年)の主題歌「あい」と、「ペテロの葬列」(14年)の主題歌「心情呼吸」が収録されています。人間関係の深みにはまっていく主人公(小泉孝太郎)の横顔と、近藤さんの揺さぶるような歌声が今もセットで思い出されます

 近藤 めっちゃプレッシャーありました(笑い)。宮部さんの研ぎ澄まされた言葉があって、僕はどこに入り込めばいいんだろうとすごく難しくて。宮部さんの作品は、どこにでもある日常の中の、誰でも持っているような感覚から事件が起こる。ちゃんとそれを俺は理解しているのかと。

 -ちゃんと伝わってきました。「届けたくて泣いてるんだ 届かなくて泣いてるんじゃない」とか、余韻のある歌詞がドラマの後味によく合っていて。

 近藤 言葉と言葉の組み合わせで、聞き慣れた言葉の視点を変えてみることを大事にしました。宮部さんのファンが僕のCDを買ってくれたりして、評価していただけたのかなと。映画「ソロモンの偽証」もすぐに観に行きました。すごいおもしろかったですよね。あー、主題歌やりたかったなー!

 -華やかな大型タイアップの一方で、不登校というパーソナルな部分を歌にした収録曲「月光鉄道」も印象的でした。

 近藤 小6から中2まで不登校で、部屋に引きこもっていました。「変わらなくちゃ」と分かっていても行動に移せず、泣きながら夜空を見上げていましたね。あのころの自分に書いた返事みたいな曲です。

 -差し支えなければ、なぜ学校に行かなくなったのですか

 近藤 小学校の時に抜群に成績が良くて、親や親戚からムダに進路を期待されてしまって。なのに5年生の時に全国模試の成績が少し落ちてきて、どんどん楽しくなくなってしまった。もういいやと1日休んだら、もう1日もう1日となって、1週間たつと戻るきっかけがつかめなくなってしまう。友達には会いたいのに、戻る勇気がないまま、結果3年でしたね。

 -中3で学校に戻ったきっかけは

 近藤 3つ上の姉の行動力のおかげで、街からちょっと離れた私立に通うことになって。環境が変わることで、出会いがあれば世界も広がる気がした。根拠のない自信がちょっとだけ芽生えて、それを自分で消さないように。そしたら、音楽の授業でギターに出会って、そこから全部開けたんです。音楽がどんどん好きになって、16歳でライブハウスでバイト始めて。

 -昔の自分と向き合って、曲にする作業はしんどくなかったですか

 近藤 結果オーライです(笑い)。自分の基礎ってそこでできたと思うから。部屋を出て、人と対話しなきゃ何も始まらないし、進まない。学校行ったら変な目で見られるのではと思っていたら、自分が思っているほど人は他人のことを気にしていなかったとか(笑い)。音楽というフィルターを通して、部屋に引きこもっている人に聞いてもらえれたら。

 -そういう身を削るような曲もあれば、擬音をテーマにした子供向けの「なんのおと?」というキュートな曲もありますね

 近藤 3歳の姪っ子がいて、せっかく音楽という共通言語があるのに「ピュアな曲は抵抗がある」とか言ってたらもったいないなと(笑い)。どろどろしたマイナスの感情の中にちょっとだけキラッとしたものを抽出するのが僕の曲作りのリアリティーですが、姪っ子に「晃央はアンパンマン歌えない」と言われてしまったのが悔しくて。この曲を聴かせたら喜んでくれて、一緒に歌えてうれしかったです。

 -いい“おじさん”なんですね

 近藤 お姉ちゃんが子供を産んだ時、こんなに人のことを喜べる感情が自分にあったのかと。身内だから特別とはいえ、ずっと自分にはきれいな部分が少ししかなくて、人の幸せを素直に喜べないどす黒い感じがあるので(笑い)。

 -そんな(笑い)。それを素直に言える近藤さんは相当ピュアだと思います

 近藤 そうですかね(笑い)。俺、こんなんでいいのかとふとわれに返ったりします。

 -収録した14曲の中には王道のラブソンクもありますし、いろいろな持ち味が詰め込まれていますね。

 近藤 アルバムタイトルの「アイリー」は、うれしさ、楽しさ、喜びという意味が含まれていて。3年ぶりのアルバムとあって、作っている最中から楽しかった。早く次が作りたくてしょうがない。それには周りを納得させるくらいのクオリティーが必要だし、今回のアルバムはそれだけのものができたと思っています。

 ◆近藤晃央(こんどう・あきひさ)1986年(昭61)8月6日、愛知県刈谷市生まれ。12年「フルール」でメジャーデビュー。セカンドシングル「テテ」がテレビアニメ「宇宙兄弟」エンディングテーマに。13年には、TBSドラマ「名もなき毒」主題歌「あい」、テレビアニメ「NARUTO-ナルト-疾風伝」エンディングテーマ「ブラックナイトタウン」、14年にTBSドラマ「ペテロの葬列」主題歌「心情呼吸」を相次いでリリース。6月4日から全国ツアーを開催する。

(聞き手・梅田恵子)