2014年にゴーストライター騒動で話題となった佐村河内(さむらごうち)守氏(51)を追ったドキュメンタリー映画「FAKE(フェイク)」が完成し、4日に公開を迎える。メガホンをとった森達也監督がこのほどインタビューに応じ、「世間の佐村河内像が変わると思う」と予言した。

 佐村河内氏の会見から約半年がたった14年夏、森氏は、親交があった編集者から「佐村河内さんの本を書いてほしい」と依頼され、横浜市内の佐村河内氏の自宅マンションを訪れた。約2時間話した後、「あなたを映画にしたい」と宣言したという。

 「絵になる男だな、と思いました。本人もそうだし、奥さんの香さんやネコがいて、窓を開ければ電車が走っているあの空間を、撮りたいと思いました」

 映画では約1年半、佐村河内氏に密着。1日のほとんどを自宅で過ごす様子を撮影した。テレビ局のディレクターからバラエティー番組の出演オファーを受けたり、海外メディアからインタビューされたりする様子を、ありのままに映している。妻の香さんはじめ、佐村河内氏の両親と4人でささやかな新年会を開く模様も収録。両親が被爆者手帳を持ち出し、佐村河内氏が「被爆2世」であることを証明する場面もある。特に、香さんとの絆にクローズアップするシーンが多く、「男と女の愛を描いた純愛映画ですね」と笑う。

 一番の見どころは、クライマックスで、森氏が佐村河内氏を説得し、「あること」をさせるシーンだ。「あのシーンがなければ、作った意味がないですから」という大オチは、公開前なので明かすことはできないというが、「世間が佐村河内氏に対して持つイメージを、180度ひっくり返す可能性があると思う」と自信をのぞかせる。

 佐村河内氏とは、主に香さんの手話通訳を使い会話した。今でも時折メールを使って連絡を取るという。口の動きで読み取る口話を使って、会話を試みるシーンもある。こうしたリアルなやりとりを経験した上で、今作品は、騒動時に物議を醸した同氏の聴覚に関して、メディアや世論の在り方にも一石を投じている。

 「聞こえるか聞こえないか、1かゼロか、という二者択一ではなくて、その間もあるということを言っておきたい。聴覚にはグラデーションがあって、彼は感音性難聴なので、全く何も聞こえていないわけではないけど、やっぱりゆがんで聞こえるんですよ。それを『全聾(ぜんろう)の作曲家』から一転して『聞こえないふりしたペテン師』っていうのは、どうかと思いますよ」

 公開にあたって、佐村河内氏が舞台あいさつなど公衆の面前に立つ予定はなく、映画によるイメージ改善を期待している様子もないという。森氏は「名誉回復させるつもりで作ったわけではないです」と前置きした上で、「騒動のさなかに、テレビや新聞を見て『こんなやつ許せない』って思った老若男女に見ていただきたいです。100万人が見てくれたら、日本も絶対変わると思うんです。まあ、それは無理でしょうけど」と笑った。【横山慧】

 ◆森達也(もり・たつや)1956年(昭31)5月10日、広島県生まれ。立教大卒。86年に番組制作会社に入社。報道、ドキュメンタリーの番組を中心に多くの作品を手掛ける。オウム真理教の信者を題材にした98年の映画「A」はベルリン映画祭に招待された。01年の続編「A2」に、オウム真理教の松本智津夫死刑囚の子どもの映像などが入った完全版も、6月18日から公開する。ドキュメンタリー作家として著書多数。