「ハクション大魔王」から「妖怪ウォッチ」まで、数々のヒット作を手掛けたアニメーターのレジェンド、須田正己氏(72)が、新キャラクター「天ノ邪鬼(あまのじゃき)」を発表した。1300年前の世界からよみがえった「邪鬼」の物語という。キャラに込めた思いを聞いた。

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 -創作のきっかけは

 須田 5年くらい前、京都の東寺で仏像に踏みつけられている邪鬼を見て以来構想を温めてきました。1300年踏みつけられているそうで、ふと足が外れて復活したら面白いんじゃないかと。「耐える」とか「立ち上がる」とか、今の時代にぶつけたいキーワードを感じたんです。「妖怪ウォッチ」を最後にアニメーターは引退しましたが、イラストだけでも邪鬼を残しておこうと。

 -おでこに踏まれた足跡があったり、キモかわいいビジュアルも独特ですね

 須田 邪鬼のおどろおどろしい成り立ちを、あまりきれいにしたくなかった。どこかに力強さを表現したくて、シワや筋肉も生々しい感じで。すっきりかわいく、というのは妖怪ウォッチのジバニャンでやっちゃったので、キモかわいさで面白がってもらえるとうれしい。「北斗の拳」など筋肉的なキャラクターも多く手掛けてきたので、こんなのも書けましたという感じです(笑い)。

 -「妖怪」と「邪鬼」はどう違うのですか

 須田 まったく違うんです。妖怪は人間が作り出すもの。カッパも、川に1人で行ったら危ないという、子供への戒めが背景にある。一方の邪鬼は仏教キャラ。悪い鬼なのか四天王の兵隊なのか、解釈はこちらの自由だそうなので、自由に今の時代に邪鬼をからめたいんですよね。

 -邪鬼は現代でどんな活躍をするのですか

 須田 「暗いところが大嫌い」「潔癖性」「ちょっと引きこもり」「物をためこんでしまう」など、ちょっと困った“特殊能力”を持ってほこらに閉じこめられている敵キャラたちを、無邪気ないたずらで結果的に助けてしまう。そんな邪鬼が気に入らないかつての仲間の鬼神が、1300年の時空を超えてあれこれ攻撃してくるというストーリーです。輩たちが抱えている問題は現代社会にも通じるし、日本人の心に響くテーマだと思います。

 -それにしても手掛けた作品が膨大で幅広い。67年の「マッハGoGoGo」以来「紅三四郎」「ハクション大魔王」「みつばちハッチ」「科学忍者隊ガッチャマン」「キャンディ・キャンディ」「北斗の拳」など、何でも書けるレジェンドとして知られます。

 須田 アニメーターは発注があればどんなものでも書けないと。「みちばちハッチ」の次に「ガッチャマン」が来てもOKです。さすがに「妖怪ウォッチ」の時は同業者やファンの方々に「うそでしょ!?」と驚かれましたけど(笑い)。今は、ロボットものを書く人はロボットものだけだし、かわいい系はかわいい系。僕みたいにいろんなものを書く人は少ないと思います。そもそも子供向けのアニメも少なくなっているし。昔は個性的な作品がたくさんあったけど。

 -今や須田さんのアニメは海外でも大人気です。フランスでは超有名人ですし、4月にはイタリアの芸術賞「ネモランド賞」を受賞したばかり。

 須田 もともと海外を意識して作ったわけじゃないから、70年代、80年代に海外で見て育った人に熱烈に評価してもらってうれしいし、不思議な気持ちです。

 -「天ノ邪鬼」はアニメ化しないのですか

 須田 まだホームページを立ち上げたばかりだし、当面はキモかわいいグッズ展開を考えています(笑い)。アニメ化のお話があれば光栄ですね。アニメーターとしては引退したので、今度は発注する側に回れたら。

 -とはいえ、作ったキャラは自分で動かしたくなるのでは。

 須田 まあ、この邪鬼を人が動かしたら、口を出すでしょうね、はは。歩かせ方ももうイメージしてますから(笑い)。

※「天ノ邪鬼」ホームページはhttp:jyaki.com

 ◆須田正己(すだ・まさみ)1943年9月16日生まれ。60年代から現代まで、フリーで活動を続けるアニメーター(作画監督)兼アニメーションキャラクターデザイナー。タツノコプロや東映アニメーション等の作品を中心に「マッハGoGoGo」「科学忍者隊ガッチャマン」「みつばちハッチ」「キューティーハニー」「北斗の拳」「魁!!男塾」「SLAM DUNK」「遊☆戯☆王」など数々の人気作品を手掛ける。現在もアニメ「妖怪ウォッチ」のキャラデザインを手掛けている。

(聞き手・梅田恵子)