第29回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原プロモーション協賛)が5日、決定した。授賞式は28日、東京・紀尾井町のホテルニューオータニで行われる。

 佐藤浩市(55)が「64-ロクヨン-」で22年ぶりの主演男優賞に輝いた。前後編4時間、一線級の俳優たちとの真剣勝負は重圧だったという。「64-ロクヨン-」は作品賞にも輝いた。

 佐藤が演じた県警広報官は記者団に突き上げられ、刑事部に拒絶され、家族にも問題を抱えている。それでも信念を貫く。「いろんな作品をやってきたから、ここを越えればというヤマ場は見えるようになりました。でも今回は1つ越えても次にもっと大きな山がある感じで先が読めなかった。撮影が終わると共演者と酒を酌み交わしましたが、作品の話というより、緊張を1回断ち切る感じでしたね」。

 若手からベテランまで主役級が集う作品だった。「詰まるところ同じ人間だけど、戦前戦後、東京五輪の前後…区切り、枠組みにはめられると何となくそんな色になる。いろんな方との真剣勝負は厳しかったけど、その中で自分はまだ役者をやらせてもらっている。賞をいただくと、まだ大丈夫なんだなあ、とほっとします」。「64」は作品賞も受賞した。「(前後編で)興行的なリスクもあった。こういう形で報われて本当にうれしい」。

 20歳で出演した「青春の門」でブルーリボン新人賞に輝いて以来、順風に見える俳優人生だが「20代半ばから30代の初めくらいは行き詰まっていた。そんな時に『忠臣蔵外伝 四谷怪談』など毛色の違う役に出会った。引きが強いんだと思います」。「忠臣蔵外伝-」で日刊スポーツ映画大賞主演男優賞も獲得した。

 それまでの好青年役から一転悪役が続いた。「撮影で、ある女優さんの首を絞めていたら急に心臓が痛くなった。人を殺しすぎたんです。悪役をやめようと思いました。そういう役ばかり続けて、やっぱり胸の中にトゲがあったんでしょうね」。

 来年公開「花戦さ」で千利休を演じている。「映像を見て『俺、枯れてるなあ』と。そう思うと次はアクティブな役がやりたくなる。あまのじゃくなんです。それが原動力になっている気がします」。【相原斎】

 ◆佐藤浩市(さとう・こういち)1960年(昭35)12月10日、東京都生まれ。81年「青春の門」で映画デビュー。94年「忠臣蔵外伝/四谷怪談」で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、00年「ホワイトアウト」03年「壬生義士伝」で同最優秀助演男優賞。父は13年に死去した三国連太郎さん。182センチ。血液型A。

 ◆64-ロクヨン- 昭和64年に起きた少女誘拐殺人事件をめぐる2部作。警察上層部と記者との板挟みに苦しむ警察広報官が、刑事時代に担当した誘拐事件を模倣したような事件に直面する。瀬々敬久監督。

 <主演男優賞・選考経過> 佐藤について「これからどんどん渋くなっていく。渋い中にも華がある」(神田紅氏)、「彼が引っ張ったから助演の俳優たちも輝いた。座長としてもすごい」(石飛徳樹氏)と評価。1回目で過半数獲得。