11月28日に覚せい剤取締法違反容疑(使用)で警視庁に逮捕された歌手ASKA(本名・宮崎重明=58)について勾留期限を迎えた19日、東京地検は嫌疑不十分で不起訴処分にした。ASKAは夜、東京湾岸署から釈放され直後、ブログに「無罪です」と記した。任意の尿検査で陽性反応が出て逮捕されたが、提出した液体を「お茶」と主張し一貫して容疑を否認。警視庁は液体=ASKAの尿と立証できなかった。2度目の薬物逮捕から3週間。ナゾが残る結末となった。

 ASKAは19日午後7時10分ごろ、勾留先の東京湾岸署の正面玄関に姿を現した。黒いVネックTシャツにグレーのジャケット姿。逮捕時同様の服装だった。無表情で左手をポケットに入れたままゆっくり歩いた。「一言お願いします」と声をかけられると、約200人の報道陣を見ながら2、3回会釈し、ニヤリと笑った。乗り込んだ車は都内のホテルに向かった。

 11月25日夜「盗聴、盗撮されている」と自ら110番通報。警察官が自宅に急行したが盗聴器などは発見されず、ASKAの言動がおかしかったため、任意で尿の提供を求めると素直に応じた。科捜研で尿鑑定したところ、同28日に覚醒剤の陽性反応が出たため逮捕に至った。逮捕直前、ブログで「陽性は、ありません」などと何度も潔白を主張。逮捕後も「前回逮捕されて以来、薬なんて見ていない。絶対にやっていない」などと一貫して容疑を否認していた。

 警視庁は19日、ASKAが逮捕後の調べで、任意で提出した液体について「採尿カップにあらかじめ用意したお茶を入れた」と供述したと明かした。尿採取は自宅トイレのドアを開けた状態で、捜査員とASKAの妻が背後から見る形で立ち会った。尿採取の瞬間を横に立って見られる広さはなく、2人とも陰部や手元まで確認できなかった。採尿は警察署に任意同行を求めて行うのが一般的。ASKAが「自宅でなら応じる」と話し、別件での通報だったこともあって、自宅トイレで採尿した。

 尿が少量で最初の鑑定で使い切っていたため、再鑑定できなかったという。逮捕後、自宅や滞在先ホテルを捜索したが吸引器などは見つからなかった。逮捕から日数がたっていたことから改めて採尿せず、また、当初提出を拒否しなかったため強制採尿もしなかったという。

 警視庁は不起訴処分について「覚醒剤成分が検出されたことは間違いないが(『お茶を入れた』との)供述を否定できず、ASKAさんの尿と立証することはできなかった」と説明。不可解にも思える供述を覆せなかった。東京地検は液体が何だったのかについて明らかにしていない。

 ASKAは14年5月、覚せい剤取締法違反(所持)の疑いで逮捕され同年9月、同法違反と麻薬取締法違反の罪で懲役3年、執行猶予4年の判決を受け執行猶予中だった。この日午後9時ごろ「不起訴でした」の題名でスマートフォンからブログを更新。「様々なことは、また、改めて書かせていただきます。すべての行動には、理由があります。いまは、それしかお伝えできません」「今日は、少し疲れてます。おやすむね。(中略)みなさん、信じてくれてありがとう」などとつづった。

 ◆嫌疑不十分 証拠が十分でないなど有罪となる見通しが低い場合の不起訴処分。不起訴の理由はほかに、犯罪に至った経緯や悪質性、更生の可能性などの情状を考慮して起訴しない「起訴猶予」、関与がなく、犯罪が成立しない「嫌疑なし」などがある。