昨年末に“逃げ恥ブーム”“恋ダンスブーム”を巻き起こした、TBS系ドラマの原作漫画「逃げるは恥だが役に立つ」(逃げ恥)の番外編が、2月25日発売の月刊漫画誌「Kiss」(講談社)4月号に掲載される。原作者の海野つなみさんの担当編集者を20年以上にわたって続けてきた、講談社「Kiss」編集部の鎌倉ひなみさんが「逃げ恥」の魅力を語った。第1回はドラマ版が成立するまでの舞台裏に迫った。

 -まず、これほどドラマが当たると思っていた?

 最初から面白かったです。脚本を読んで、いいねとなって…2、3話目の台本をもらったくらいで1話の試写があって。見て、いいねっていう感じでした。

 -TBSとは綿密に話が出来ていた

 今回に関して言うと、プロデューサーから結構、細かく聞かれています。原作は、もちろん最終回までいっていなかったので「どういうふうに進めるつもりですか?」と聞かれて、お話しした上で、逆に「どういうふうに作るつもりで(原作を)どこまで描くつもりか」と聞きました。1番最初に全11話分のプロット(あらすじ)、そして脚本を全て事前に見せていただきました。もちろん、気になったことを返すと「ここは直せます」、「ここは(こういう理由で)直せません」、「変えようと思って撮影していたけれど、その中で、ちょっとうまくいかないので、やっぱりそのままでいかせてください」などと必ずお返事が来ました。登場人物に関しては「ファーストネームがついていないけれど、どんな名前にしますか?」という話があった時は「つけられないなら、こちらで」と言って、海野さんが全部つけました。

 -TBSはもちろん、NHK大河ドラマ「真田丸」など、他局の番組のパロディーもあった

 原作にも、パロディーはたくさん入っていますよ。まずパロディーをやるかどうか? など打ち合わせはしました。こちらは「やるでしょう?」みたいな話から入りましたけど。やるとなった場合、どういうことができるか、こちらの要求は話しました。(原作1巻の)冒頭は(テレビ朝日系の)「徹子の部屋」のパロディーで(TBSからは)「あれは、ちょっと…。『情熱大陸』だったら、できますよね」という話になった。最初、基本的にはTBSのコンテンツの中から考えましょうという話になって、海野さんとどんなのがいいか話しました。あと、他に考えているパロディーはありますか? ということで、漫画では書かなかったけれど、やってみたかったスポーツ選手(レスリング選手)のヒーローインタビューバージョンとか、ニュース番組とか街頭インタビューとか、そういう話はこちらから振っていました。

 -キャスティングは、はまった?

 キャスティングに関しても、ほぼほぼ相談はあって進めていました。みくりちゃんが新垣結衣さんというのが最初に決まっていて…それだけが決まっている状態が、結構長い間あって。「相手(平匡)役は星野源さんはどうですか?」という話があって「やっていただけるならいいですよね」という話になって、おふたりが決まり、その先もご相談がありました。沼田さんとか百合ちゃんもご相談があって、話が進んでいき、こちらがダメです、みたいなことも、あまりなかった。私と海野さんの方で「日野さんって意外に、本当に大切なので(キャスティングは)大事にしてください」と言ったら、きちんと「これから藤井隆さんにご相談しますけど、よろしいですか?」とご相談がありました。日野さんは単純に1番、普通の人(で視聴者が目線を寄せやすい)なんですよ。

 -現場での新垣と星野の様子を振り返って

 新垣さんと星野さんは素…というか(感情の)起伏が激しくない。全然、押し付けがましい色がないというか…だから、あのドラマの時は、みんな星野さんは津崎さん、新垣さんはみくりちゃんとして見てくれていたと思います。新垣さんの世代は、うまい女優さんが多いですが、皆さん結構、個性が強い。新垣さんは、個性もすごいあるんだろうけど、消してもきちんとしてくれる。インタビューをしていても、すばらしいと思いました。

 -原作とドラマ版で違っていたキャラは?

 私たちだけ聞かされていたのは、原作の最終回の方に出てくる、沼田さんの彼になる大清水さんの役割を、ドラマでは百合ちゃんの部下・梅原君にするということです。最初から大清水という名前だとバレるので、名前は変えるけれど、最後の最後に大清水さんの役割になる、ということでした。6話目くらいまでは、他の出演者も、そうなると知らなかったそうです。

 -社会現象になった「恋ダンス」。最初に星野の「恋」を聴いた感想は?

 最初に聴いたのは、デモテープ段階だったと思うんです。なかなか曲が出来なくて、TBSの那須田淳プロデューサーに「曲、どうなりましたか?」って話をしたら「ちょうど、きたんですよ」と音源を聴かせてもらいました。出来た直後くらいだったと思いますが、面白いな、と思いました。

 -今、流れている楽曲と違うところはあった?

 最初の冒頭、イントロは出来ていたので、こういう感じなんだと…。ポップな明るい感じで、ダンスが出来るようなイメージで作ってもらいます、とは聞いていました。次に聴いたのは、発売の時でした。ドラマ自体がラブコメの場合、(主題歌は)大体、アイドルの恋愛の曲になる形が多いので…(「恋」は)ちょっと変わっているじゃないですか。いいな、と思いました。オープニングがチャラン・ポ・ランタンの「進め、たまに逃げても」になることも聞いていましたが、変わった感じで、いいなぁと思いました。星野さんもチャラン・ポ・ランタンも、一般にすごく色が付いているアーティストでもなかったので、ドラマのオリジナルになる。そういう意味で2曲とも、すごく良かったと思います。星野さんは、すごくファンはいらっしゃいますが、やりたいことがはっきりしていて、見通しがある、サブカルっぽいようなイメージが強かった。少女漫画の読者層からすると、そこは本流なので、それも良かった。

 次回は、鎌倉さんが海野さんの作品の作り方、「逃げ恥」制作の裏側などを語る。【村上幸将】