先日、東京映画記者会主催のブルーリボン賞を発表した。何人かに紙面発表のためのインタビューを行った。どの受賞者も、ざっくばらんな話をしてくれた。紙面に載らず印象的だった話を書いてみたい。

 作品賞「シン・ゴジラ」の樋口真嗣監督。庵野秀明総監督との2人体制の現場について質問が及んだ時のこと。製作中、公開後も2人がモメたうわさなどが飛び交った。庵野監督との現場の様子を聞くと、樋口監督はまず「円滑な現場なんてそもそもないんです」ときっぱり。確かに、厳しい物作りの現場で、仲良く円満に物事が進む、ということの方が珍しい。

 樋口監督はさらに「それを円滑にいくようにするのが僕の役目。幸いなことに、2人で監督をするというのは『のぼうの城』でも経験していますから(=犬童一心監督と2人監督体制)。うまくいくコツは、相手の意見を否定しない代わりに、自分の意見も否定させないこと」と話した。

 これは、物作りの現場だけでなく、普段の議論や人付き合いにも当てはまる。社会人になったころ「議論で打ち負かすのは、相手の尊厳を傷つけること。議論に勝っても、相手の心は確実に離れている」と教わった。それ以来、人と議論することが恐ろしくなってしまった。人となるべく議論をしないように過ごしてたような気がする。

 樋口監督の言葉がじわじわと響いてきた。思いがけず日々の姿勢を省みることになったのだ。樋口監督は笑いながら付け加えた。「自分の意見も否定させないってことは、やることが増えるんだけど」。それでもいい物作りにつながればすばらしい。