「ツィゴイネルワイゼン」など鮮やかな色彩感覚と様式美あふれる作品で知られた映画監督の鈴木清順(すずき・せいじゅん)さん(本名清太郎=せいたろう)が13日午後7時32分、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患のため、都内の病院で死去した。93歳。

 「清順マジック」と呼ばれた独特の美学は、あり得ない色使いとあり得ないアングルにゆえんしていた。

 「東京流れ者」では、真っ黄色のキャバレーに歌姫が登場し、深紅の背景で人が死んだ。「刺青一代」では畳を透かして下から見上げるような視点で撮り、「殺しの烙印」では殺し屋がアドバルーンの上に飛び乗って逃げた。

 監督本人は「どうやってびっくりさせようかとばかり考えていた。娯楽映画を撮っているつもり」と振り返っている。人を食ったような物語の展開は、時に難解と評され、映画会社の幹部たちを困惑させたり、激怒させていた。それでも色調やアングルが登場人物の背景や心情を映していると解釈され、60年代後半から熱烈なファンを生んでいく。

 80年「ツィゴイネルワイゼン」が国際的な評価を受けると旧作にもスポットが当たり、国内外にファン層が広がった。米国のジム・ジャームッシュ監督(64)やクエンティン・タランティーノ監督(53)らは多大な影響を受けたと公言している。最近も「東京流れ者」の色使いを、今年のアカデミー賞で注目される映画「ラ・ラ・ランド」のデミアン・チャゼル監督が参考にしたことを明言したばかりだ。

 映画界の第1歩となった松竹時代。身だしなみには人一倍気を使っていた木下恵介監督に「あんな汚らしい男をうちの助監督に付けるな」と入社間もない鈴木青年を遠ざけた。現に1度も木下作品には付いていない。それでも日活に移籍する時、ただ1人「頑張れ」と声を掛けたのも木下監督だった。人情の機微にこだわった繊細な巨匠は、対極にあった若者に期待を掛けていた。

 05年「オペレッタ狸御殿」はタヌキと人間が恋に落ちるミュージカル時代劇。いかにも鈴木監督らしい「あり得ない組み合わせ」が遺作となった。