第89回アカデミー賞授賞式が26日(日本時間27日)、米ロサンゼルスのドルビー・シアターで行われる。97年「タイタニック」に並ぶ、史上最多タイの14ノミネートを果たしたミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」(デイミアン・チャゼル監督)の優位が伝えられる今年の賞レースを、ニッカンスポーツコムが独自に分析します。かつてアカデミー賞の現地取材でタッグを組んだ、村上幸将記者と、ロス在住の千歳香奈子通信員による大予想大会その1、スタート!!

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 村上 現地での予想は、いかがですか?

 千歳 全体的なことで言うと、やはり「ラ・ラ・ランド」が圧勝するのでは、というのが、大方の見立てです。今年の賞シーズンを席巻してきたのは間違いないですし、批評家の評価も良いので順当なら作品賞、チャゼル監督の監督賞、エマ・ストーン(28)の主演女優賞は堅いと思います。

 村上 ロスで夢を目指す男女が現実と向き合うドラマに、ミュージカルを絡め、現実と空想の世界を織り交ぜた、全編通して心がウキウキと躍り上がるような1本。ゴリゴリのミュージカル映画ではなく、ドラマ部分もしっかり描かれているので、幅広い層の支持を集めそうですね。

 千歳 「レ・ミゼラブル」や「シカゴ」などと違い、オリジナル映画だということもすばらしいですし、強みだと思います。ミュージカル映画はハリウッドの伝統ですが、70年代頃から商業的にヒットしなくなり、ニューシネマやSFX(特殊効果)を使った作品(「スター・ウォーズ」など)が娯楽映画の主流となっていった過去があります。90年代からはブロードウェイのヒット作が次々と映画化され、2002年には「シカゴ」が、アカデミー賞作品賞、助演女優賞など6部門を受賞しました。

 村上 対抗馬の最右翼と目されるのが作品賞、監督賞など8部門にノミネートされた「ムーンライト」(バリー・ジェンキンス監督、4月28日公開)。主人公の黒人少年がいじめに遭っているのを救った黒人の男や、少年が唯一、心を寄せる男友達への思いは、胸が痛むほどピュア。人種や性的少数者(LGBT)というテーマに向き合いつつ、それらを超えた人間愛の物語は、多様性が認められてきた現代らしい作品。

 千歳 アカデミー賞は昨年、一昨年と2年連続で俳優部門にノミネートされた俳優全員が白人だったことから「白すぎるオスカー」とやゆされる騒動に発展しました。それを受け、今年は「多様性」を前面に押し出し、その結果、過去最多の6人の黒人がノミネートされました。

 村上 極端な保護主義政策を掲げ、イスラム圏7カ国からの入国を禁止する大統領令を発したり、不法移民の取り締まり強化など移民に厳しい姿勢を見せる、トランプ大統領の就任が、賞レースに影響を与える可能性もあるのでは?

 千歳 トランプ大統領の誕生により、今年に入って事情が少し変わってきており、改めてマイノリティーへの注目度が高まっているのも事実です。白人至上主義を主張するトランプ大統領への抗議から、投票権を持つ映画芸術科学アカデミーの会員たちが「ムーンライト」や、作品賞など3部門にノミネートされた「ヒドゥン・フィギュアズ」(セオドア・メルフィ監督、日本公開未定)など、貧困や差別、マイノリティーを題材とした作品を選ぶ傾向が強まる可能性、黒人が主人公の作品が受賞する可能性も十分あります。ロサンゼルスタイムズ紙の映画批評家は、「ムーンライト」を推しています。また、全米俳優組合(SAG)賞で作品賞にあたるアンサンブル賞を「ヒドゥン・フィギュアズ」が受賞しました。過去、SAG賞にノミネートされずアカデミー賞を受賞したのは、95年「ブレイブハート」のみで、楽しいロマンチックミュージカルである「ラ・ラ・ランド」にとって不利な状況になっています。作品賞でも大どんでん返しがある可能性は捨てきれず、「ラ・ラ・ランド」がジンクスを破れるかにも注目です。

 村上 人種や移民をテーマにした作品としては、「LION/ライオン~25年目のただいま~」(ガース・デイビス監督、4月7日公開)も作品賞、助演男、女優賞など6部門にノミネートされた。5歳で迷子になったインド人の少年が、オーストラリア人夫婦の養子となって国を渡り、成長する中で実の家族を探し、25年ぶりに再会を果たした実話を描いた。オーストラリアといえば、トランプ大統領が難民引き受けの合意に関して、ターンブル首相と電話会談してもめたばかりで、ある意味、タイムリーな作品では?

 千歳 トランプ政権への抗議の広告を出して話題になりました。映画に初出演し、主人公の幼少時代を演じた8歳のインド人子役サニー・パワールが、授賞式に出席しようとしてビザ取得に苦労しました。そのことを受けて、トランプ政権が推し進める移民政策への抗議とも取れる文章を、ロサンゼルスタイムズ紙に広告として掲載したのです。

 「来年は、(ビザを取ることが)無理になっているかもしれない」

という文章とともに

 「自分がどこから来たのか、忘れないで」

というキャッチコピーが、映画のタイトルの下に書かれただけのシンプルな広告でした。この時期になると、映画芸術科学アカデミー会員に向けた広告が出されることが多いのですが、宣伝なしの抗議広告は、見る人の心を打つもので話題になりました。

 明日の第2回は、俳優部門を中心に、第89回アカデミー賞をより細かく見渡し、各部門の予想も発表します。