第89回米アカデミー賞授賞式がハリウッドのドルビー・シアターで行われ、「ムーンライト」が受賞した作品賞で、誤って「ラ・ラ・ランド」が表彰される前代未聞の珍事が起きた。関係者がプレゼンターに、手違いで主演女優賞(エマ・ストーン/ラ・ラ・ランド)のカードを渡してしまったためとみられる。式全体では、排他的政策を取るドナルド・トランプ米大統領への批判や皮肉が相次ぎ、政治色の強い授賞式となった。

 大トリの作品賞発表の時だった。プレゼンターの米俳優ウォーレン・ベイティ(79)は、作品賞が書かれているはずのカードを封筒から取り出すと、少しためらって再度内容を確認した。隣にいた米女優フェイ・ダナウェイ(76)に見せると、ダナウェイは笑顔で「ラ・ラ・ランド!」と読み上げた。客席にいた同作関係者は抱擁で喜びを分かち合い、壇上へ。下馬評の高かった「ラ・ラ・ランド」の7冠に、会場は祝福ムードに包まれた。

 しかし、「ラ・ラ・ランド」関係者が順にスピーチをしていく中、事件は起きた。ジョーダン・ホロウィッツ・プロデューサーが関係者から報告を受け、「皆さんすみません、間違いです。作品賞は『ムーンライト』です。ジョークじゃありません!」と訂正。「MOONLIGHT」と書かれた正しいカードを掲げると、会場は騒然となった。

 客席からステージを見ていた「ムーンライト」のバリー・ジェンキンス監督(37)は、信じられないといった様子で開いた口をおさえ、キャストらは抱擁して喜んだ。その後、「ラ・ラ・ランド」チームと入れ替わるように「ムーンライト」チームが登壇し、「これが、夢でなく現実。なんてことだ!」「本当にこれが現実なのかしら」と、困惑ながらも喜びを語った。

 プレゼンターのベイティは、司会のジミー・キンメル(49)から「何てことしてくれるんだ!」と冗談めかして突っ込まれると、「封筒を開けたら『エマ・ストーン/ラ・ラ・ランド』と書いてあった。だから、あんなにじっくりカードを見ていたんです」と状況を説明した。

 関係者によると、各賞に同じ内容の封筒が2つずつ準備されているという。直前に表彰された主演女優賞の2つ目の封筒が、作品賞の封筒と間違えて、プレゼンターに渡ってしまったようだ。

 「ラ・ラ・ランド」は作品賞こそ逃したものの、エマ・ストーン(28)が主演女優賞を、チャゼル監督が歴代最年少の32歳で監督賞を獲得した。ほか作曲賞、歌曲賞、美術賞、撮影賞も含め、本年度最多の計6部門でオスカーに輝いた。【千歳香奈子通信員】