東映やくざ映画で活躍し、「十津川警部」シリーズなどテレビドラマで広く親しまれた俳優渡瀬恒彦(わたせ・つねひこ)さんが14日午後11時18分、多臓器不全のため東京都内の病院で死去した。72歳。16日、所属事務所が発表した。

 渡瀬恒彦さんを初めて取材したのは81年、北海道・大雪山を見晴らす野外ロケだった。主演映画「化石の荒野」の撮影で、入社間もない私は、野球担当から異動したばかりというライバル紙記者と2人きりで、つたない質問を連発した。

 それでも渡瀬さんは終始笑顔で受け答えし、雪の残った平原に倒れ込んで劇中のポーズまで再現してくれた。懐の深さに感服したことを覚えている。が、同行したベテランの宣伝マンによれば「こんなリラックスした恒さんは珍しい」とのことだった。どうやら「素人」ばかりという環境が逆に幸いしたようだった。

 存在感の兄・渡哲也とは対照的に幅広い役を自在にこなした渡瀬さんだが、演技の器用さとは対照的にメディアの取材は得意ではなかった。

 ベテランのスタッフや共演者には「恒さん」と親しまれ、何度も出演したテレビ朝日系「徹子の部屋」のように慣れた相手には「意外なエピソード」も明かしたが、通常の取材では「小難しい質問」になると顔をこわばらせてしまうところがあった。生真面目で、誤解を受けるのが嫌だったのだろう。映画「南極物語」で共演した高倉健さんに似たところがあった。

 91年、そんな渡瀬さんが200人を超える取材陣を前に、あらゆる質問に毅然(きぜん)とていねいに答えた。兄・渡さんが直腸がんの手術を行った直後の会見である。病床の兄のために自分が表に立つと心に決めたのだろう。涙ぐみ、ひと言ずつかみしめるように話した。心の痛みがダイレクトに伝わってくるようだった。

 初取材のおうようさとは状況がまったく違ったが、感じた温かさは同じだった。【相原斎】