人気落語家の柳家喬太郎(53)の器用さを、主演映画「スプリング、ハズ、カム」(吉野竜平監督)で実感した。

 これまで何度か映画に出演したことはあるが、いずれも出番は、ほんの少し。今回は主演で、しかも広島弁を使うという難しい役どころだった(喬太郎は東京生まれ)。

 広島から上京し、大学入学を控える娘のために、部屋探しをする1日を描いた物語。祖師ケ谷大蔵近辺を、娘と一緒に部屋を見て回る、というそれだけなのだが、喬太郎の味が生きていた。

 娘を思う気持ちを照れに隠して、ひょうひょうと振る舞いながらも、複雑な心境がつい表に出てしまう。亡くなった妻との思い出を語る場面は、短いながらも落語家の本領発揮(?)だった。顔を左右に振って「ねえねえ、このレストランどう?」「入ろうよ」「先に行けよ」…。

 物語は、喬太郎の新作落語のように、笑いあり、少しのホロリあり。喬太郎は「監督の言う通りにやらせてもらっただけ」と言うが、喬太郎でなくては成り立たなかったと思う。

 チケット完売落語家と言われて長い喬太郎だが、役者としての魅力も十分持っている。