中森明菜「少女A」や郷ひろみ「2億4千万の瞳」で知られる作詞家・売野雅勇氏(66)が昨秋出した著書「砂の果実 80年代歌謡曲黄金時代疾走の日々」(朝日新聞出版)を読んだ。チェッカーズやラッツ&スターなどのヒット曲を書いている人だから、楽曲はなじみ深いのだが、人となりは本を読んで初めて知った。

 70年代から活躍する作詞家や作曲家は日本テレビ系「スター誕生」などのオーディション番組に審査員として出演することが多かった。阿久悠氏、森田公一氏、都倉俊一氏などは顔も、人柄もお茶の間によく知られていた。

 売野氏は80年代に入ってから作詞家として活躍し始めたので、今まで知らなかった話がたくさんあった。ラッツ&スター、坂本龍一とのエピソードなど興味深いものばかりだった。

 記者は80年代前半が学生、後半が記者と真っ二つに分かれている。なので、登場してくるアーティストたちも、純粋にファンとして見ていたり、取材対象として接したりとさまざま。非常に興味深かったので、ひと晩で一気に読んでしまった。

 そんなこんなで、本日は広瀬すず(18)主演の映画「チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~」を見てきた。いつもゲスな芸能ネタを追っている芸能デスクや、成分の8割がゴルフというような、周囲のアラフィフのおじさんたちが「泣いちゃったよ」と感激した面持ちで話していた作品だ。

 なにより感心したのは広瀬すずのダンス。一昨年の新人賞を総なめにした映画「海街diary」で、素晴らしいサッカーのドリブルを見せて、スポーツ新聞社である弊社でも、その華麗な技が話題に。あまりにもすごかったので映画会社の人に聞いてみたら「それが是枝和弘監督のこだわりです」と言われたのだが、今回も特訓を積んだのだろう。広瀬すずの身体能力のすごさに脱帽だ。

 で、泣けたかというと…先週見た「ラ・ラ・ランド」についで、いい映画だと思ったが泣けなかった。若者のみならず、周りのオッサン、オバハンが「いい映画だった、泣いた」と言っている映画に感動できないのは、芸能記者をやりすぎたせいで感受性が鈍っているのだろう。10年くらい前に映画「フラガール」を見たときは、たくさん涙を流せたのに。年をとって潤い成分が枯渇してしまったのかもしれない。

 自分が純粋だった80年代、中森明菜やチェッカーズが新人だった時代に見た映画を思い出してみた。気が付くとアマゾンで映画「フリークス」と「ピンクフラミンゴ」のDVDを注文していた。前者は見せ物小屋のスターたち、後者は巨漢のドラァグクイーンが主人公の“史上最も悪趣味な映画”の呼び声の高い作品。芸能記者のやりすぎではなく、もともと腐った人間性だったことを思い出させられた。

 と、こんな事を書いている、某ターミナル駅そばの喫茶「ルノアール」。仕事関係の打ち合わせをしていたのだが、隣の席で就活詐欺の現場らしきものを目撃してしまった。今月9日に好評のうちに最終回を迎えた、三浦友和(65)主演のテレビ朝日系「就活家族~きっと、うまくいく~」で、新井浩文(38)が演じたような悪徳就活セミナーの主催者がいた。ドラマの中の工藤阿須加(25)のような好青年が30分ごとに現れて、「やりたい仕事」「どんな人になりたいか」「困った人に頼られる人間になりたい」など熱い思いを語っている。

 詐欺師とおぼしき人間は、ラフな格好にもかかわらず、偉そうに「生き方」「仕事」などについて語り、最後に就活セミナーのパンフレットを手渡し「今しか、チャンスはないんだから後悔するよ」とだめ押しをする。偉そうな態度を取るわりには、しっかり青年からコーヒー代を100円単位で徴収するセコさなのだが。被害者候補のスーツ姿の純粋そうな青年が、30分単位で次々と現れる。

 「君は今、詐欺師と話しているんだよ」。ドラマの三浦友和のように信念を持って青年にアドバイスをしてやりたいのだが、それも余計なお世話。記者自身もジャージー姿でターミナル駅そばの喫茶店で、PCを開いてゲームをやっている怪しすぎるオッサンにすぎない。世の中には不倫だけじゃなく、至る所にゲスが転がっていると思い知らされた休日だった。