16年を代表する歌の1つとして、星野源(36)の「恋」を挙げることに、異論を挟む人は少ないのではないだろうか? 星野が出演し、16年冬に放送されたTBS系ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(「逃げ恥」)のエンディングテーマで、アップテンポで軽快な音楽に合わせて星野や新垣結衣らキャスト陣が踊る「恋ダンス」が、老若男女問わず人気を呼んだ。甲子園球場で熱戦が展開されている、第89回選抜高校野球大会の開会式でも入場行進曲として使われた。

 その「恋」の別バージョンが、20日に放送された民放ラジオ101局特別番組「WE LOVE RADIO! ~山下達郎・星野源のラジオ放談」でオンエアされた。この番組は、星野と山下達郎(64)が、1時間にわたって対談する番組だ。

 山下と星野は、ともにシンガー・ソングライターであり、人気ラジオ番組のMCの顔も持つ。山下は1992年(平4)からTOKYO FMでスタートし、17年10月で25周年を迎える「山下達郎のサンデー・ソングブック」(日曜午後2時)、星野はニッポン放送で16年から「星野源のオールナイトニッポン」(月曜深夜1時)のMCを務めている。

 また2人は、ともにラジオの愛聴者でもある。「WE LOVE RADIO! ~山下達郎・星野源のラジオ放談」では、2人のラジオとの出会い、楽しみ方に加え、2人が代表曲を番組のために歌唱した。星野は「恋」のアコースティックバージョンを披露した。そこで、「恋」完成までの裏話を披露した。

 星野 ちなみに、弾き語りでやらせていただきます。最初はBPM(テンポ)120くらいで作ったんで。そのくらいが1番、腰が動くというか…本当は115ぐらいが動く感じがあるんですけども、なんかワクワクしなくて。なんでワクワクしないんだろうと思って、いろいろ試している中で、BPMをものすごく上げてみたんです。160ちょいくらいまでやってみたんです。そしたら、急にワクワクしだして。33回転のレコードを、間違って45回転でかけちゃった時、格好いいみたいな…それだ! と思って、すごく速くして曲を作ったんです。そしたら、ものすごく歌いづらくなって(笑い)すごく早口になった。弾き語りは、かなりゆっくりに戻して、バラードぐらいの気持ちで。

 つまり、番組では「恋」の制作当初の形、プロトタイプが流れたわけである。

 星野と山下は、ラジオの魅力について、次のように語った。

 星野 やっぱり距離感の近さかな、とは思います。テレビと圧倒的に違うのは、自分の近い場所でMC、パーソナリティーがしゃべっている感覚になる。(中略)1対1という感じがすごくする。ラジオ局から全国に流れていたりするものなんですけど、自分のためだけにやっているんじゃないかと勘違いできる。だからこそ、ウソをつかないでしゃべることが出来る。

 山下 (ラジオは)1対1のメディア。テレビとラジオって、東京ドームとライブハウスくらいの差がある。でも、ラジオはマス(メディア)なんですよ。マスでありパーソナルである、特殊なメディアなんですよ。(中略)ラジオは滅びるんじゃないか、という時代がずいぶん長かったんですが、最近はネットとか、そういうものの発展で、ラジオが昔みたいに、より軽く、手軽にどこでも聴けることが復活しつつある。それがラジオの利点なので。

 山下が指摘するように、10年4月からサービスが始まったパソコンやスマートフォンでラジオを聞くことができるサービス「radiko」の登場で、ラジオは聴きやすくなった。16年10月11日からは、過去1週間以内の放送を聴くことができる「タイムフリー」という新たな機能が増え、聴きやすさはさらにアップした。「WE LOVE RADIO! ~山下達郎・星野源のラジオ放談」も、オンエアから1週間後の27日まで聴くことができる。

 ラジオ復活…その言葉が実感として感じられたのが、11年の東日本大震災だ。記者は震災発生後、東北の被災地に入り、現地取材したが、津波で町が流され、テレビすら見られなくなった人々が手にしたのが、ラジオだった。故やなせたかしさん作詞の「アンパンマンのマーチ」が避難所で流れ、被災者が勇気づけられる姿を目の当たりにして、涙が出てきたのを昨日のことのように覚えている。ラジオの持つ力を、あらためて感じさせられた日々だった。

 そうした楽曲の中で、代表的な1曲を山下も歌っており、「WE LOVE RADIO! ~山下達郎・星野源のラジオ放談」の中でも披露している。この番組でしか聴くことができない2人のライブを聴き、ラジオへの愛を1時間にわたって語り合う放談に触れ、ラジオの魅力を再確認してみてはいかが? 【村上幸将】