世界3大映画祭の1つ、フランス・カンヌ映画祭(5月17日開幕)で、学生作品を対象としたシネフォンダシオン部門に、井樫彩監督(21)の「溶ける」がノミネートされた。12日に同映画祭事務局が発表した。

 井樫監督は北海道伊達市出身で、監督2作目の「溶ける」は、東放学園映画専門学校映画制作科の卒業制作作品。河瀬直美監督(47)がエグゼクティブディレクターを務める「第4回なら国際映画祭2016」の映画部門のNARA-wave(学生映画部門)でゴールデンKOJIKA賞(グランプリ)を受賞した。感情を抑えるためにひそかに川に飛び込むのが日課の女子高生・真子が、ある日その姿を、東京から来た、いとこの青年に見られてしまう。その青年の存在や親友の妊娠などの出来事で、行き場のない真子の日々が変化してゆく物語。

 今回のノミネートを受けて、井樫監督は「作品が完成してから、ありがたいことにたくさんの方々に作品を見ていただく機会がありました。その機会が増えれば増えるほど、作品が自分の手から離れていく感覚があり、賛否両論の反応を受け取ることに驚きと感謝を感じていました。この作品が海外へ行くのは初めてのことなので、不安もありますが、手から離れたわが子の発表会を観に行くような気持ちです。この経験を糧に、これからも精進していきます」とコメントした。

 17年は、シネフォンダシオン部門への応募数が約2600作品に上り、その中から16作品がノミネートされた。日本人では、14年に「Oh Lucy!」で2位に選ばれた平柳敦子監督以来、3年ぶり10人目のノミネートとなる。

 ノミネートの背景には、16年になら国際映画祭とカンヌ映画祭シネフォンダシオン部門がパートナーシップを結んだことが大きい。「溶ける」がグランプリを獲得したNARA-wave作品で、シネフォンダシオンの規定に合致し、応募を希望する3作品について、なら国際映画祭からシネフォンダシオン部門のディレクターへ推薦付きで応募したことでノミネートが実現した。

 なら国際映画祭は、10年の第1回から日本の新人監督の育成という目的を掲げており、そこに向けて、着実な一歩を踏み出した格好だ。河瀬監督は「今後も『奈良から世界へ』はばたく若手監督の助力となるよう、なら国際映画祭は、カンヌとのパートナーシップを深めていきたいと思います。」とコメントした。