升毅(61)高橋洋子(63)が、若年性アルツハイマーと闘う中高年夫婦を演じた映画「八重子のハミング」(佐々部清監督)が6日、東京など全国7館で公開初日を迎え、各地で満席、立ち見も出るなど好発進した。シネコン向けではないといわれた作品だが、先行公開の好成績でシネコンでの公開も始まる。

 佐々部監督の目に涙が浮かんだ。ここ何日かは「席が埋まるのかどうか不安だった」と話したが、新宿武蔵野館、有楽町・スバル座、横浜ニューテアトルでは、升や高橋の舞台あいさつ効果もあり、満員、立ち見になった。

 8年前に同作の脚本を書き上げた佐々部監督は、大手映画会社やテレビ局映画部門に企画を持ち込んだが、すべて断られた。「シネコンの時代に中高年夫婦の話は地味すぎる」と言われた。シネコンでは若い世代やファミリー層を呼び込めて、大きな動員が見込める作品が好まれる。併設、あるいは近くの飲食、物販店舗との相乗効果を狙うためというのも1つの理由だ。

 映画化は難航した。だが、地方の映画祭で出会った観客に「シニアが見る映画がない」と言われた言葉に背中を押された佐々部監督やスタッフが、自分たちで資金を集め、昨年春に撮影にこぎつけた。

 昨秋、作品の舞台、山口県内の7館で先行公開されると約2カ月間で約2万5000人を動員した。好調な成績を見て、地方のシネコンからも引き合いがきた。6月にかけて全国で順次公開し、約30スクリーン規模での上映となるが、成績や口コミ次第では拡大する可能性は十分ある。【小林千穂】