藤は河瀬監督の予感的中を目の当たりにしたことがあると明かした。河瀬監督が雨の現場で「もうすぐ月明かりを出します」と言うと、本当にきれいな月夜になった。藤は「何だかマジカルな力がある」。

 河瀬監督は、永瀬が「河瀬スタイル」と呼ぶ演出法で俳優の力を引き出してきた。弱視のカメラマンを演じた永瀬は、撮影2週間前から、主人公が住む設定のマンションに本当に住み始めた。撮影現場では「スタート」「カット」が掛からない。「いつ撮られてもいいように役を生きている。スペシャルな現場です」。

 「映画は光と影の芸術」という言葉がある。タイトルには映画への愛情を込めた。コンペ作品が上映されるメイン劇場のリュミエールは、映画を発明した兄弟の名を冠しているが、偶然にも光という意味。10年ごとに大きな賞を受賞している「法則」もあるだけに、期待は高まる。

 ◆「光」 映画に音声ガイドを付ける仕事をしている美佐子(水崎綾女)は、弱視のカメラマン雅哉(永瀬正敏)と出会う。無愛想な態度に反感を覚えた美佐子だったが、写真の魅力や人柄にひかれていく。雅哉は視力を完全に失ってしまう恐怖を感じながら日々を過ごしていた。