尾上菊之助(40)が東京・歌舞伎座「芸術祭十月大歌舞伎」(10月1~25日)で、インドの神話的叙事詩「マハーバーラタ」を新作歌舞伎「極付印度伝(きわめつきいんどでん) マハーバーラタ戦記」にして主演することが8日、分かった。インド作品を歌舞伎にするのは史上初の試み。

 「マハーバーラタ」はヒンズー教の聖典でもあり、インドの国民的な読み物。菊之助は3年前、静岡県舞台芸術センターの公演で、同作の神と人間が織りなす物語の魅力に触れ、歌舞伎化を考えた。

 壮大すぎて完全な日本語訳がないほどの「マハーバーラタ」から、2つの家の権力争いを歌舞伎にする。菊之助は「歌舞伎でも、源平ものなど対立する家同士の物語がある。歌舞伎になると思った。登場する5人の王子の名乗りは(『白浪五人男』の)七五調にしてみたい」と古典歌舞伎の名作場面をイメージしたり、手法を取り入れたりしながら作るとした。

 菊之助は悲劇の英雄カルナを演じ、宿敵アルジュナとの戦いを通し、争いの愚かさ、人間の存在意義を問い掛ける。役名は和風の名前で物語の舞台も日本だが「インドの哲学、宗教観を壊さず、インドの人が見ても楽しんでもらえる作品にしたい」と原作への敬意を基本に立ち回りや象の登場などエンターテインメント性にもこだわるつもりだ。

 新作歌舞伎に携わるのは05年初演で蜷川幸雄さんが演出した「NINAGAWA 十二夜」以来。「蜷川さんや父(尾上菊五郎)に、ある意味おんぶに抱っこだった。当時『40歳になった時にまた新作を作れていたら』という思いがあった。前回よりどれだけ成長してるか。試練と思ってやりたい」。

 今月、インドを訪問して日印文化協定発効60周年記念の舞踊を披露する予定。マハーバーラタの聖地も訪ね、台本に反映させる。

 ◆「マハーバーラタ」 紀元前4世紀から編まれはじめたとされる世界最長の叙事詩。インドの宗教、哲学、思想、文化などの土台となっている。古代ギリシャの「イリアス」「オデュッセイア」と並ぶ世界3大叙事詩。新作歌舞伎「-マハーバーラタ戦記」はカウラヴァ家とパーンダヴァ家の争いを描く3幕構成。菊五郎は物語のキーになる重要な役で出演。静岡県舞台芸術センターの芸術監督、宮城聡氏が演出、脚本は演出家、劇作家の青木豪氏。