6年ぶりの来日公演を行ったジェーン・バーキン(70)にインタビューする機会があった。

 英国生まれのバーキンは21歳の時に出演した映画「欲望」が仏カンヌ映画祭のパルム・ドール(最高賞)。翌年には元夫セルジュ・ゲンズブール(享年62歳)とのデュエットで注目を集めたから、女優、歌手としての活動は半世紀に及ぶ。

 指定されたのは東京・神楽坂の脇道を上がったところにある瀟洒(しょうしゃ)なホテルで、記者もカメラマンも初めて訪れた場所だった。46年間で十数回の来日歴。招請元が用意した銀座や六本木の有名ホテルに泊まるハリウッド俳優やポップ・スターとは一線を画す日本通ぶりである。

 ハリウッド女優には必ずと言っていいほど専属メーク係がついていて、取材前には入念にチェックをする。が、バーキンの場合は男性マネジャーが兼務していて、直前に前髪を右手でクシャクシャとやり、「この方が彼女らしいでしょ」と笑った。この間数秒。それだけである。ちなみに私にも「飲み物は何にしましょう」と気遣うところを見せて別室に消えたのだが、お願いした水は結局最後まで出てこなかった。

 エルメスの代名詞ともなっている「バーキン」が彼女に由来しているのは知られた話だ。飛行機で隣り合わせたエルメス社の社長が、カゴの中に無造作に荷物を詰め込んでいるのを見て「あなた用のバッグを作らせてください」と申し出たのだという。

 だが、取材ルームに彼女が持ってきたのは「バーキン」ではなく、その「カゴのようなバッグ」だった。品とカジュアルさと容量の大きさ…文字通り彼女と同じものを兼ね備えた「バーキン」ではあるが、あまりにもシンクロしすぎて、それを持ったとたんに逆に自然流に生きるジェーン・バーキンらしくはなくなってしまうのか。そんなパラドックスも頭に浮かんだ。

 インタビューでは、東日本大震災でいち早く来日して支援活動を始めたときの話を聞きながら、彼女の「日本愛」はホンモノだと改めて思った。そして、白いTシャツにジーンズ姿の周りには、当たり前だが「バーキンらしさ」にあふれていた。