女優秋吉久美子(63)の記憶力に驚かされた。

 日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞が30回の節目を迎え、年末の授賞式を前に第1回助演女優賞となった秋吉にビデオ・メッセージをお願いしたときのことだ。

 対象となったのは人気シリーズ第39作の「男はつらいよ 寅次郎物語」(87年)のマドンナ役。主演の渥美清さん(享年68)とダブル受賞となった。

 30年前ともなると、「さて、どの作品でしたっけ」と記憶がおぼつかないものなので、作品資料を持参したのだが、実際に会ってみると、そんなものはまったく必要ないことが分かった。

 ロケ地は奈良県吉野町。そのことで水を向けると「確かカネにミネと書く金峯山寺(きんぷせんじ)というお寺で撮影が行われました、修験道で有名なお寺なんですよ」とすらすらと思い出した。

 「軽トラックを運転しなければいけない役で、そのために教習所に通い、免許をもらってから5日目に撮影があったんです。セールス・ウーマンで手慣れていなくてはいけないのに砂利山に乗り上げてしまったことを覚えています」とエピソードも明かした。

 授賞式の写真を見せると「なつかしいなあ」と言いながら、そのドレスのブランドまで教えてくれた。

 50歳を越えてから早大大学院公共経営研究科に入学。総代として修了しているから、衰えない向学心、頭脳明晰(めいせき)ぶりがうかがえる。この経歴もあって国際会議のパネリストや三重県文化審議会委員も務めている。

 若々しい外見もあり、いまだに70年代の「翔(と)んでる女優」のイメージをお持ちの方も少なくないと思うが、実像はかけ離れている。