西村まさ彦(57)が、山田洋次監督(86)の新作「妻よ薔薇のように 家族はつらいよ3」(公開中)で夫婦げんかの末、妻に出て行かれる夫を演じた。演技ながら「頭を抱えた」ほど悩んだという西村が、ニッカンスポーツコムのインタビューに応じ、夫婦げんかを演じたことを踏まえ、世の男性に夫婦げんかの解消法、考え方を“伝授”する。

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 西村は、今回で3作目となる「家族はつらいよ」シリーズで、平田家の長男・幸之助を演じた。商社で働く中間管理職の幸之助は、妻史枝(夏川結衣)との間に2人の男の子がおり、幸之助の両親周造(橋爪功)と富子(吉行和子)と3世代で暮らしている。

 16年公開の第1弾は両親の熟年離婚で激震が走った家族、17年公開の第2弾では高齢で危険運転が心配な周造の運転免許を返上させようと奔走する家族を描いた。今回は長男の嫁として一家の世話役を果たしていた史枝が、家事の合間にうとうとして泥棒に入られ、冷蔵庫に隠したへそくりを盗まれてしまう。父に似た頑固者の幸之助は、史枝に「俺の稼いだ金をピンハネをして、へそくりをしていたのか!」、「俺があくせくして働いているのに、お前は昼寝とはいい身分だな!」などとののしり、史枝は家を出てしまう。家事一手に担う史枝がいなくなり、平田家はあわや火事という事態に陥る。

 -長男が一家を揺るがす事件の“主役”になった

 西村 台本を手にした時に、嫁に対してきついセリフが用意されておりまして…どう表現しようかと頭を抱えたんですよ。世の女性たちに、敵を作ってしまうなぁと(苦笑い)

 -家事の合間に疲れて居眠りしてしまい、空き巣に入られた妻を、これでもかとばかりに糾弾する。きついセリフに抵抗は感じた?

 西村 抵抗はありました。「誰が飯を食わしてやっているんだ」みたいなセリフがありましたよね。女性が1番嫌う言葉らしくて…男の側からすると、そこにウソはないんですよね。ただ幸之助は、家事労働の大変さを理解していなかったと思うんです。自分は外で、それ以上に頑張っているという自負心があるからこそ言っちゃったんじゃないかと思いますが。「俺は寝ていないぞ」と(笑い)

 -「稼いだ金をピンハネ」と言ったのはマズかった

 西村 強烈ですよね…ピンハネ(苦笑い)史枝が出て行く前と出て行った後のやりとりを演じてから、何とも言えない寂しさだったり、後悔を心の中にずっと抱えて、その後の撮影に臨んでいたので…どうしても、何かが残っちゃっているんですよね。与えられたセリフであっても、言葉って残るんですね。史枝に言った言葉を、ずっと引きずっていて、誰か、早く何とか救ってくれと思っていた自分も、そこにいたんです。

 -幸之助は、弟の庄太(妻夫木聡)にいさめられるまで、史枝との関係修復に動いていないようだった

 西村 「何度か電話をかけたのに史枝が出なかった」というセリフがあったように、幸之助も1度、アクションを起こしているんですよね。苦しいからこそアクションを起こす。帰ってきて欲しいからこそ電話したのに「俺が電話しても出ない、何でお前が電話したら出るんだよ」みたいなことを言っているんですよ。結局、嫁がいなくなったら何も出来なかったということを、思い知らされたのではないかと思うんですよね。幸之助は商社の中間管理職で、上からの締め付けも下からの押し上げもあったりで、大変なポジションに身を置いていると思います。家でゆっくりさせてくれという思いが強くて、思わず嫁に対して攻撃的な言動もあったりするのは理解できる…言い過ぎですけど。

 -作品を通して世の夫たちに伝えたいことは?

 西村 連れ合いに対して、たった一言のいたわりの言葉が言えない…それだけで嫁は安心できるのに、なぜ言えない自分を作ってしまったのか? ということですね。映画を見終わった後、男どもが自分を省みて、ちゃんとした答えが出せなくても早く白旗を上げて「私が悪うございました。今までありがとう、いつもありがとう」って言葉を早く言おうという考えになって欲しいですね。幸之助が家族の前でグッとくるシーンは、すごく恥ずかしいことで、この先、どうやって弟と向き合っていくんだろう? と思いました。「お兄ちゃん、みんなの前で泣きそうになった」と、さんざっぱら言われるんじゃないかと。だけど、それくらいのことをしでかしたんです。自分が心を開かないといけないことって、あるんだよということを世の男どもはこの作品を見て知る必要がありますね(苦笑い)

 -男と女は考え方が違う

 西村 男と女は生き物が違いますよね。同じと思って、見ちゃダメなんです。だから、女性を敵にしたら勝てないと思って、まず謝った方がいい。そこを早く知った方がいいです。女性は小学生の時から、同じ学年でもおませさんじゃないですか? 男は、ずっとガキのまま年を重ねていくところがあって、女子は上から「いつまで、ガキなの」と見ていて…その関係性は、いつまでも縮まらないまま。だから男は、女子とばかり向き合っていても勝てないやと、社会に身を投じるみたいな(笑い)

 -社会で自分を保つ、虚勢を張るのが逃げ場になっているのかも知れない

 西村 そうかも知れないですね。外に出て一生懸命やって、家に帰って奥さんにいい子、いい子してもらって…あくまでも女性が上、ということなのかしら? と思ったりもします。男には男、女には女の立場がありますから、分かり合うということは難しいけれど、分かり合うためには一言が必要だということなのではないでしょうか? (夫婦は互いに)受け入れるということなんだと思うんです。史枝も幸之助も最後は受け入れたんだと思うんですよ。それが許しにつながるんじゃないですかね?

 -特に出会って時間が経過した男女ほど、許しが、うまくいく秘訣(ひけつ)かも知れない

 西村 やっぱり、許しですよね…甘えでは男女の問題は解決しないですね。

 次回は西村が、大家族の長男を演じた立場から、現代の日本における家族、夫婦、そして映画まで熱く語る。【村上幸将】