西村まさ彦(57)が夫婦げんかの末、妻に出て行かれる夫を演じた、山田洋次監督(86)の新作「妻よ薔薇のように 家族はつらいよ3」が25日、公開された。西村がニッカンスポーツコムのインタビューに応じ、大家族の長男を演じた立場から現代の日本における家族、夫婦から映画まで思うところを語った。

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 「妻よ薔薇のように-」は、山田監督の13年「東京家族」で一家を演じた俳優8人が再集結し、同監督にとって「男はつらいよ」以来20年ぶりの喜劇映画として16年3月に公開された「家族はつらいよ」のシリーズ第3弾だ。

 16年公開の第1弾は、3世代で同居する平田周造(橋爪功)と富子(吉行和子)の熟年離婚騒動、17年公開の第2弾では高齢で危険運転が心配な周造の運転免許を返上させようと奔走する家族を描いた。今回は西村演じる平田家の長男・幸之助が、家事の途中で居眠りして泥棒に入られた上、へそくりを盗まれた妻史枝(夏川結衣)に激怒し「俺の稼いだ金をピンハネをして、へそくりをしていたのか!」などとののしったことで、史枝が家出して揺れる家族を描いた。

 -山田洋次監督が描いた家族を4度にわたって演じて、どう感じたか?

 西村 大家族ですよね。「家族はつらいよ3」で、僕は大家族にすごく意味があると思いました。核家族で長男夫婦と子どもだけだったら、問題はきっと解決しなかった。おじいちゃん、おばあちゃんがいて、すぐ側に幸之助の妹・成子(中嶋朋子)と泰蔵(林家正蔵)の夫婦、弟の庄太(妻夫木聡)と憲子(蒼井優)夫婦が近辺にいて、丸く収まった。夫婦2人だけでは結構、大きな亀裂が入っていたと私は思うんですよ。

 -現代社会は核家族化がますます進み、前作でテーマとして描かれた無縁社会の問題も進行している

 西村 だから、山田監督は必要なんだよという思いで大家族にされたと思うんです。。おじいちゃん、おばあちゃんに育てられた孫は、心が豊かであることが多いと聞いたことがあります。親に厳しく言われても祖父母が温かく受け入れてくれる…子どもにとって逃げ場を作ることにもなりますし、追い詰められないことが、どれだけ救いになるか…そこに3世代が住む意味があると思うんですね。

 -日本にはかつて大家族という家族形態があったし大事だと感じさせてくれる

 西村 子どもたちと会うような機会もあるんですけども、のびのびしている子に「おじいちゃん、おばあちゃんいるでしょ?」って聞いたら、大体いて「おじいちゃん、おばあちゃん、大好き」って言うんですよ。子どもが伸び伸びしていると、僕はいいと思っています。おじいちゃん、おばあちゃんがいるだけで、こんなに違うんだと知る瞬間でもあったりするんです。

 -でも現代は、ますます核家族化が進んでいる

 西村 大家族に戻る、もしくは大家族とは別の、小さいコミュニティーを作る必要があるんじゃないかと思うんです。子どもたちが、いきなり社会に出て行くことになっちゃうと、人との関わりを社会に出てから学ばなきゃいけなくなると思うと、すごく負荷がかかるし大変だと思いますね。

 -史枝が家を出て向かった故郷での、隣近所との交流も描かれている

 西村 そこ(故郷)があるから、またいいんですよ。故郷に知り合いが誰もいなかったら、史枝はただ寂しさを背負って鬱々(うつうつ)と生きていなければいけないですから。田舎がある人、ない人はいますけれども、田舎に帰ったら受け入れてくれる人がいることのすてきも、1人の観客として感じられたことです。映画を見ていて安心できる…人、家族、田舎っていいなぁということを、強く感じさせられる作品でしたね。僕は田舎は富山ですけど、帰っています。

 -古き良き日本を感じさせる作品でもある

 西村 この映画には、誰もが本当に共感できることが、スキがなく盛り込まれ、本当が全て詰まっていると僕は思いましたね。初号試写を見終えた後の軽い打ち上げの席で、松竹の方が「松竹らしい映画が久しぶりに出来た」と、しみじみとおっしゃっていたのですが、家族をテーマに描くのは松竹のお家芸ということを思いますと、そういう伝統を持っていたんだと思い知らされましたね。

 -映画のテーマは「妻への讃歌」

 西村 主婦の方に、まず見ていただいて、日々の家事労働から解放された時を味わってもらいたい。出来れば、だんなさんも連れて行って「ほらね、あなた…私、こんなに大変なのよ」と一緒に見ていただいて、だんなさんが「分かったよ。俺は幸之助みたいにならないよ」みたいなやりとりをすれば、この映画の意味が増すと思いますね。若年層から老年層まで楽しんでいただけると思いますが…年配の方に見ていただくと結構、これまでの労がねぎらわれると思います。

 -若い世代はオンデマンド配信で映画などをパソコン、スマートフォンで楽しむようになり劇場から離れていると危惧する声も強い

 西村 映画館にわざわざ行き、お金を払うのは、とても意味があることなんです。全く見ず知らずの人たちと映画を見る空間は、何とも言えない素敵さがあるんですよ。自分の脳にすごく刺激を与え、そこから独り歩きし、作品に対するあれやこれやが増幅して記憶に強く残る…心を豊かにするんですよ。オンデマンドだと、ただ作品を消費するだけになってくるんだと思うんです。絵画を鑑賞するのと同じく、鑑賞して愛でるのが映画館だと思うんです。そこに行って、違う人と見て、感動を共有するのは、とても大事なことなんです。同じような考えの人が、そこにも、ここにもいた、みんな同じように感動するんだ、ということを知ることが出来るすてきが、映画館にはあるんだと思うんです。ですから奥様が、だんな様を引き連れて一緒に見るとか、子ども、おじいちゃんやおばあちゃんを引き連れて、こんなところで笑っている、泣いている…ということでお互い、分かり合う。映画館は必要だと思いますよ。

 映画について語る時、西村の声はひときわ大きくなった。人の心に感動をもたらす映画の力を、西村は信じている。映画館のスクリーンで、家族の素晴らしさを伝える「家族はつらいよ」の力も…。【村上幸将】