どん底を味わい続け、ガンと闘った1人の騎手に密着したカンテレのドキュメンタリー番組「もう1度、騎手になりたい。ガンと闘ったどん底ジョッキー」(関西ローカル)が23日深夜1時50分から放送される。

 今年6月、JRAの騎手を引退した大下智騎手(32)。デビュー1年目の07年は8勝を挙げたが、その後は1勝も挙げられない年もあった。ここ数年はレースの騎乗機会は減り、調教を手伝って生計を立てていた。大下は自嘲気味に「今ジョッキー界で120等兵ぐらいちゃう」と苦笑する。

 騎手でありながらレースには騎乗できない日々…。大下は悩んだ。「このまま騎手の道をあきらめるべきなのか」。昨年10月、騎手としてどん底を味わっていた大下にガンが見つかった。甲状腺がんのステージ4と診断された。医師からは視力と声を失う可能性があると伝えられた。

 手術は成功したが、入院生活は2カ月に及んだ。手術後、首や目に違和感は残ったが、再び騎乗できる可能性が残された。

 そんな中、日に日に強くなっていったのは「もう1度、騎手になりたい」。その思いを後押ししてくれたのは、家族や、競馬学校の同期、浜中俊騎手、藤岡康太騎手、そして先輩の武豊騎手、幸英明騎手だった。

 「こんな自分でも支えてくれる人がいる」。闘病生活で競馬から離れたことで騎手になりたいと思ったきっかけを思い出した。

 初めて競馬を見た8歳のころ「馬に乗りたい。騎手になりたい」。少年時代に抱いた純粋な憧れを思い出した。「周りにどう思われようが、そんなことはとっくに分かってて。辞める辞めへんは周りにとやかく言われることじゃないと思うんです。もう僕の意地だけじゃないですか」。覚悟を決めた。もう1度、騎手になる-。大下騎手の闘いが始まった。

 JRA通算825戦17勝。決して胸を張れる成績ではない。ただどん底を味わった者にしか分からないものがある。あきらめない。同番組は1人の騎手が挑む復帰の闘いに密着した。

 5月27日、東京で競馬の祭典・日本ダービーが行われたその日、大下の姿は京都競馬場にあった。執念のレースは、見る者の心を揺さぶる。