フジテレビ系で30日午後9時から放送する「ギリギリ昔話」の総合演出を務める木村剛氏が、ニッカンスポーツコムの取材に応じた。インタビュー第2回は、過去の番組と向き合い、検証した上で考える、今…そして、これからのテレビについて聞いた。【村上幸将】

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 木村氏は第3弾となる今回の番組で「昔と今のテレビは違う」を1つのテーマに、過去の番組を紹介、検証した。03年まで同局で放送された「ビューティー・コロシアム」に出演し、整形した女性を取材し、現在も整形が、きちんと維持されていることを確認した

 木村氏 昔の番組を取材して、すごい、今じゃ考えられない、面白いというのが間違いなくあって始まっている番組です。「ビューティーコロシアム」では、女性の人生とともに整形がどうなっていくんだろうというのは気になるところでした。整形は残っていて、すごいと思いましたし、女性の皆さんが明るく考え方まで変わっていました。「娘が出来ても整形は勧める」とおっしゃった方もいらっしゃいました。番組が前向きな、いい影響を与えられたと思いましたし、テレビの力を思い知りました。

 過去の番組を検証する企画に対し、局内では批判の声もあったというが、押し通して作った裏には制作者としての思いがあった。

 木村氏 過去の素材を使うのも、ちょっとお恥ずかしい限りなんですけど、今と昔の違い自体には懐かしいけれど面白いという感情は絶対、あると思っています。今がやりづらいということも感じていますけど、昔のテレビがやれていることは、すごいと思っていますから。アンチテーゼということではなく、リスペクト。いろいろなところで絶対に、やりようはあると本当に思っていて、今はそれが出来ていないだけで。

 81年スタートの「オレたちひょうきん族」などのお笑いバラエティー、トレンディードラマで一世を風靡(ふうび)した90年代と、フジテレビはテレビ業界をリードしてきた。一転、現在は視聴率の低迷を連日、芸能マスコミで報じられる。思うところはありつつも「単純に、ありがたい声だと思う。しょうがないことですし、そこを超えられていない自分が悪いと思うだけですね。きれいごとかも知れませんが、そう考えていくしかない」と現実は直視している。

 フジ全盛の頃は、お笑いバラエティーでも多額の制作費をバックに、大掛かりなセットを組み、お笑い芸人が体を張った芸を見せていた。昔と今の制作現場に、違いはあるのだろうか?

 木村氏 体育会系のノリは薄くなっていっています。勤務時間もそうですが、昔は明日までに仕込め、夜中になってから明日、ヘリ飛ばせみたいな、むちゃぶりもすごかった。そういうのは減っています。今の方が正しいとは思うし、昔が過激だったかも知れません。でも、両方を経験しているから昔の良さも感じたりするんですけどね。

 木村氏は入社以来“トーク+情報”という一貫した方向性で、時代に即した番組作りをしてきた。時代の流れの中で思い知らされるのが、コンプライアンス(法廷順守)が昔より厳しいことだという。

 木村氏 あまり言いたくはないですけど、お金のこと、コンプライアンスのことは非常に変わりつつあると思います。カットと言うよりは、その手前に、もうやらないという判断の方が強い。ノリでやっちゃおうということは、どんどん減っている。でも、それが正しいんだと思いますけど。

 「今の方が正しい」と言い聞かせるように繰り返す一方で、制限があるからこそ生み出せるものがあること、そもそもフジテレビが持つ、ノリの良さを大切にしたいという思いは強い。

 木村氏 エロい言葉を制限されるから、明石家さんまさんから「エッチ」という言葉、新たな表現が出てきたわけで…無制限だと逆に面白くないぜという話は、昔からあったわけです。昔のようにノリで何でも進めちゃダメなんですけど、その中で生まれるものもあると経験したから思える部分もある。フジテレビは僕個人もそうですけれど、ノリの良さが昔からあるような気がする。シンプルに自分が面白いと感じたものを、突き通す力というのは(過去の番組を検証して)勇気が湧きましたし、大事なんだなと一制作者としてあらためて思いました。

 過去の番組を検証した上で「シンプルに面白いもの」として行った新企画が、パンサー尾形貴弘(41)が、育児に協力しないと不満を持つ妻あいさんに出て行かれるドッキリ企画だ。帰宅すると妻子、家財道具がこつぜんと消え、ぼうぜん自失となる尾形を定点観測で映し続けた。

 木村氏 シンプルに面白いと思ったものをやりたかった。育児でキレた奥さんが出て行くというのを、ちまたで聞きますし、尾形さんの奥さんが不満があるとも聞きやってみようと。尾形さんのリアクション、面白いですよね。最後まで全然、分かっていなかった。カメラが回っていないところでも「やりすぎじゃねぇか?」と怒っていました。

 インターネットやスマートフォンの普及で、最近の若い世代はテレビすら見なくなっているという。そうした時代に、どういう番組を送り出すのか?

 木村氏 本当に面白くしていきたい。本当に、それしか思わないです。ここでしか見られない=面白い=視聴率がつながっていくと思っています。厳しい競争の中ですけど、視聴者は動画は見ているわけじゃないですか。見ないということじゃなくて、離れていっているだけ。動画もいろいろ見ていますけど、例えば「~やってみた」は、昔の番組でやっていた企画を、個人でやっていたりとか、「ドッキリ」の原形みたいなことをやっている。人の興味は変わっていないと思う。その中で、新しいもの、面白いなと思えるものを見つけて、やるしかないということですね。「トリビアの泉」を作っていた時を思い出しても、今もそうですけど、企画を立てて面白いなと思えるものは、見ていて笑えたり、何回見ても笑えるたり、結果として面白くなる。引き続き、そうしていきたいですね。

 最後に「『フジテレビが詰まらない』と言われると、ムカつきますよね?」と問いかけた。それに対する答えは、明快だった。

 木村氏 それは、そうですよ。でも、それは単純に僕らの力不足なので、自分たちにも腹が立ちますし…本当にダメだと思います。悔しいですし、面白いと言われたいので。今回の番組でも、ご批判もいっぱい、あるかもしれないですけれど、頑張ります。

 ◆木村剛(きむら・つよし)1974年(昭和49)12月3日、兵庫県生まれ。大阪教育大学附属池田小・中・高、一橋大学を経て1998年にフジテレビに入社。入社以来バラエティ番組の制作を担当。手がけた主な番組は「トロイの木馬」、「チノパン」、「笑っていいとも!」、「メントレG」、「ワイドナショー」、「VS嵐」、「ホンマでっか!? TV」など。188センチ、血液型A。