約300万円と低予算で製作され、東京都内の劇場2館で6月23日から公開されたインディーズ映画「カメラを止めるな!」(上田慎一郎監督)が、全国の上映館が150館を突破し、ついに47都道府県全てで公開されることが決まった。興行通信社調べの全国映画興行収入ランキングでは、4~5日付で圏外から10位にジャンプアップした。ニッカンスポーツコムでは、上田慎一郎監督(34)に単独取材し、近年まれに見る大ヒットとなった作品を生み出した、その脳内を探った。第1回は「上田慎一郎監督の映画の作り方」【聞き手・構成=村上幸将】

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 「カメラを止めるな!」の勢いが、ますます加速している。6月23日から新宿K’sシネマと池袋シネマ・ロサで公開されてから1カ月強で、全国47都道府県に拡大。“聖地”となった新宿K’sシネマでは、11日から再上映が始まったが満席となり、初回の上映から78回連続で満席となった。

 -今の率直な思いは

 上田監督 今は、本当に驚くニュースが毎日、自分とキャスト、スタッフの方に飛び込んでくるので、それでビックリ、ビックリしているうちに1日が終わる、驚きの毎日ですね。

 「驚きの毎日」と語る上田監督だが、驚きなのはそのキャリアだ。映画学校などで学んだことはなく、映画会社に入ったり、映画の撮影現場で助監督などの下積みをした経験もない。中学時代に実家にあったハンディカムで撮影を始め、全くの独学で映画を学んだ。

 上田監督 中学生の頃から、家にハンディカムがあったので、友達と放課後に追いかけ合ったりとか、銃を撃ち合ったりとか、たわいのないものを毎日のように撮っていたんですよ。撮って映画を見て「あの映画の、ああいうシーンを再現したい」、「最高なシーンを俺たちもやりたい」みたいな…多分、自分たちが映画を見て「最高だ!」という感覚と経験から映画を学んでいったので。映画学校に行って体系とか、知識から入っていないので…今になって、それが良かったのかな? とは思いますね。

 高校卒業後、地元の滋賀県から上京し、独学で映画を学んだが一時、映画製作から離れた時期もあった。

 上田監督 20~25歳までは、映画を全く作っていなかったんです。映画を作りたくても作れなかったと言うよりは…多分、映画だけやった時に、それで評価されなかったら、もう終わりじゃないですか。自分に実力がなかったということがバレちゃうから…。今、思えばですけど、映画だけで真っ向勝負するのが怖かったのかな? と、ちょっと思いますね。

 だまされて、ホームレスになったこともあったという。

 上田監督 ホームレスになったのは、本当ですよ。だまされたのは23、4歳…映画を作っていない頃ですよ。不労所得を得て、楽してお金を作ってから映画を作った方がいいじゃないか? と、そそのかされたんです。怪しいビジネスに手を染めた結果、200万円以上の借金をして。

 その後、自主映画製作団体に入り、25歳だった09年に映画製作団体「PANPOKOPINA」を結成した。映画や脚本の教本を読み始めたのは20代後半になってからだという。

 上田監督 「シナリオの書き方」とか、そういう本を読んだのは20代後半くらいから…結構、後の方になってからやと思いますね。映画を見て、映画を撮ることによって、映画から映画を学んでいったから、感覚とか直感とか、体で映画を学んでいったのが良かったんだなと思います。シナリオや映画の教本を読むと、そこに書かれていることは既に自分が知らず知らずのうちにやっていたり、というのがあったので、体で学んでいったということです。やっぱり映画を見ている時に胸、心が動く瞬間をつかんで、それを次は自分たちで再現してみよう…という試行錯誤ですね。

 10年に長編映画「お米とおっぱい」を監督・脚本として製作したが、ヒットしなかった。そこで、国内に複数の映画賞がある短編映画に方向を切り替え、作品を作っては応募することを繰り返した。

<11年>

 「恋する小説家」

 <13年>

 「ハートにコブラツイスト」

 <14年>

 「Last Wedding Dress」

 <15年>

 「猫まんま」(オムニバス映画「4/猫」の1編。商業映画デビュー作)

 「テイク8」

 <16年>

 「ナポリタン」

 <17年>

 「ナニカの断片」

 「ヘタクソで上手な絵」

 その中で、国内外の映画祭でグランプリを含む46の賞を受賞し、自らチャンスをたぐり寄せていった。

 上田監督 助監督から下積みを経て映画業界に入ったというのではなくて、自主映画団体を作って、短編映画を作り続けていて、その短編映画を国内の短編映画祭に応募して…いっぱいあるんですよ。ありがたいことに入選、受賞させていただいて、プロデューサーから時々、お声がけいただくようになって。短編映画は8本作って…賞をいただきましたが、落ちたところもいっぱいあります。自分の映画を作ったら、出せるところは全部出して。

 次回は、上田監督に加え、監督の長編映画デビュー作「お米とおっぱい」に出演した時から監督をよく知る、俳優の山口友和(40)を交え、「カメラを止めるな!」が生まれた秘密をはじめ、上田監督の脳内にさらに深く迫っていく。