フジテレビ系で25日午後9時からアニメ特番「ワンピース エピソードオブ 空島」が放送される。尾田栄一郎氏が「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載中の原作漫画「ONE PIECE」でも屈指の人気を誇る「空島編」を130分に凝縮し制作、放送する。フジテレビ編成部の狩野雄太プロデューサー(以下、狩野P)に、こだわった点、苦労したことなど制作の裏側を聞いた。【聞き手・構成=村上幸将】

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 「ONE PIECE」は、「週刊少年ジャンプ」で1997年(平9)7月22日に連載がスタートした。現在も連載中で、9月4日にコミックス最新巻の90巻が発売される。フジテレビ系で1999年(平11)10月20日に放送がスタートしたアニメも、8月19日放送回で850話を数える。

 連載が長期にわたる作品は、読者、視聴者も2~3世代に拡大する。一方で物語が長大になり、新規の読者、ファンが入るにはハードルが高くなりがちだ。「ONE PIECE」も決して例外ではなく3、4年に1度のペースで製作、公開される映画と、テレビシリーズで放送された物語を新しい作画、声優の新記録音、新たな切り口などで完全新作として制作し毎夏放送する「エピソードシリーズ」は、裾野を広げる意味で重要さを増している。

 今回、新たにエピソードシリーズとなる「空島編」は、主人公モンキー・D・ルフィ(声・田中真弓)率いる“麦わらの一味”が、空に浮かぶ伝説の空島に隠された黄金伝説をめぐる大冒険が描かれ、原作では24巻から32巻に収録されている。テレビシリーズでは2003年(平15)2月9日放送の第144話から翌04年6月13日放送の第195話まで51話、放送された。人気が高い一方、物語は長く、スカイピアの神エネルをはじめ魅力的な登場人物が多い一方、設定が複雑で難解だと“脱落”してしまった読者もいる。130分に凝縮するのは極めてチャレンジングな企画だが、狩野Pはルフィと“麦わらの一味”を主体として描く方針を決めた。

 狩野P 主人公を袖に置いたドラマは、遊びやスピンオフを別にして、なかなか作らないです。少年漫画なので、なおさらそこはコアなんじゃないかと思います。今となっては9人に増えた“麦わらの一味”ですが、ルフィは何で主人公で、みんながついて行くか…ということを象徴しているような行動をしているなと、すごく思うんです。「空島編」は原作がメチャクチャ長く、よく読むと分かるんですけど、とにかく名称が多い。3つの部族、2つの島が出てくる壮大な話。同じものなのに、名前が2個あるみたいなところがある。ややこしい言葉の難しさを分かりやすくしようということで相当、分かりやすくなったと思います。「ワンピース」を知っている人、知らない人がともに楽しめる導入編になったと思います。

 ルフィを物語の軸に置くという考え方は、原作の尾田氏の基本的な考え方と一致する。尾田氏は、日刊スポーツが2016年7月23日公開の映画「ONE PIECE FILM GOLD」公開を記念し、同6月24日に発行した「大ONE PIECE新聞」第1号のインタビューで「ルフィが何を考えているかを頭に置いて、とにかくルフィがみんなの役に立った…その、たった1行が書けるようなお話にしないと…そこだけは、外せないんですよ」と語っている。

 狩野Pは、17年8月に放送した原作20周年記念特番「ワンピース エピソードオブ東の海~ルフィと4人の仲間の大冒険~」も手がけたが「空島編」をエピソードシリーズとして制作するには勇気が必要だったという。

 狩野P 「エピソードオブ東の海」は一定の評価をいただきましたが…「空島編」に新たに手出しした人はいないわけです。勇気が必要でしたが「空島編」を見たいという声は多く、チャレンジしようと思いました。まだ続いている、終わった作品ではないですが、アニメにしても1話30分で850話になると(それを1から見せるのは)とんでもない時間を費やすわけで視聴者にとって親切ではありません。(大きな転換点となる)新世界編まで10本くらいとか、なるべく少ない本数(の新作アニメ特番)で入っていくのが1つ、大事だと思うんです。

 制作にあたり、狩野Pが最初に行ったのは、約17巻分の原作の内容をホワイトボード2枚にまとめることだった。それを元に脚本を作る段階で、長大なエピソードを分かりやすく、面白くするために、1つのテーマを中心に置いた。

 狩野P バトルロイヤルのような戦いの中で1人、また1人減っていくさまなど、エピソードの中に面白いところはいっぱいあるんですが1番、心が動いたこと、大事にしなければいけないのは「黄金の鐘をめぐる400年の約束と絆」だろうと。東映アニメーションさんと話す中で、そこをすごく大事にした方が良いという話になり着目して脚本を作ることにしました。

 事前の徹底解析と明確なテーマ設定から、脚本の制作はかなり早かった。それでも映画ほど時間をかけられない、テレビアニメの制作は過酷だという。

 狩野P 脚本は今回、長い本打ち(脚本の打ち合わせ)を2、3回やって、今までで一番早い17年11月末くらいに脱稿して(アニメ制作の)現場に早く渡しているんです。130分枠なので実尺は106分くらいなんですけど、2時間弱…それって普通に映画1本分じゃないですか? (映画なら)普通に制作には1年くらい、かかりそうなものを、よく半年で作ると思いますよ。でも昔は、ひどい時なんて3月に脚本を脱稿して、夏に放送…4カ月で制作なんてことも…。実写映画じゃないんだから! 1枚、1枚、画を書いているんだから! って感じです。クオリティーは、いいはずです。

 第2回は、歴代最長の5年、担当を務める狩野Pに、物作りの考え方と「ワンピース」への思いを聞く。

 ◆狩野雄太(かの・ゆうた)1984年(昭和59)4月11日、東京都生まれ。2008年にフジテレビ入社し、ペイテレビ事業(CS放送)で編成と営業、経営企画を行い2014年から編成部に所属。担当作品は「ワンピース」、「ゲゲゲの鬼太郎」、「ちびまる子ちゃん」などのアニメ、15年1月期の月9ドラマ「デート~恋とはどんなものかしら~」、同年のスペシャルドラマ「実写版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」、「世にも奇妙な物語」などのドラマ、ニュースバラエティー番組「全力! 脱力タイムズ」まで他ジャンルにまたがる。180センチ、血液型A型。