俳優役所広司(62)が、新作映画「峠 最後のサムライ」(小泉尭史監督、20年公開)に主演することが3日、分かった。司馬遼太郎氏の名著「峠」(新潮文庫)を初めて映像化した作品で、共演は松たか子(41)、仲代達矢(85)など。役所は、戊辰(ぼしん)戦争で名を挙げ“最後のサムライ”と呼ばれた越後長岡藩のヒーロー、河井継之助を演じる。

昨年、同じく司馬氏の小説が原作の映画「関ヶ原」で徳川家康にふんした役所が、今度は幕末の知られざる英雄、河井継之助を演じる。

河井は越後長岡藩に先進的な思想を取り入れ、一介の武士から家老に上り詰めて“幕末の風雲児”とも呼ばれた男。諸藩が明治新政府軍と旧幕府軍に分かれて戦った戊辰戦争で、どちらにも属さず新政府軍に徹底抗戦し、越後長岡藩の中立、独立を目指した“最後のサムライ”だった。

原作「峠」は、累計発行部数284万部を超える名作。これまで「竜馬がゆく」「功名が辻」「国盗り物語」など、司馬氏の著書は多数映像化されてきたが、「峠」は1966年(昭41)の毎日新聞連載開始からドラマも含めて過去1度も映像化されたことがない。

役所の脇を固めるのは松たか子と仲代達矢、さらには田中泯、香川京子、佐々木蔵之介、坂東龍汰、永山絢斗、芳根京子、榎木孝明、渡辺大、矢島健一、山本学、井川比佐志、東出昌大、吉岡秀隆と超豪華俳優陣が集って、このたび満を持して製作が決まった。

役所は「世界的に知られている『サムライ』という美的人間の代表でもある河井継之助を、背筋を伸ばし、気持ちを引き締めて撮影に臨みたいと思います」。継之助の妻を演じる松は「継之助さんの夢の邪魔をせぬよう、役所さんの足を引っ張らぬよう…。先輩方から学べることに感謝しながら務めさせていただきます」とコメントした。

継之助を重用した前藩主を演じる仲代は「時代劇の中ではよく信長や信玄がもてはやされますが、私はタヌキオヤジと言われながら250年余の日本の平和を築いた家康の方が本来の侍のような気がしています。今回の作品でもそうした侍のあり方が問われるでしょう」と、日本のサムライ像を揺るがす作品になることを期待している。

9月中旬にクランクイン予定で、継之助の故郷新潟・長岡市などで約3カ月かけて撮影する。5000人のエキストラを動員した、迫力満点の合戦シーンも予定されているという。

公開は、東京五輪が開催される2020年。新時代を迎える日本で、日本人の生き方とは、リーダーのあるべき姿を問う大作となりそうだ。

◆司馬遼太郎「峠(上・中・下)」(新潮文庫) 越後長岡藩の河井継之助は、詩文、洋学などの単なる知識を得るための勉学は一切せず、歴史や世界の動きなど、物事の原理を知ろうと努める藩士。重職に就くと、洋式の新しい銃器を購入して富国強兵に努めるなど、藩政改革に乗り出す。大政奉還の知らせが届き、戊辰戦争に突入。幕末の動乱の中、開明論者でありながらも武士道を捨てず、官軍と戦い散った英雄の生きざまを描いた。