フランスの国民的歌手シャルル・アズナブールさんが亡くなった。94歳だった。9月17日に東京・NHKホールでのコンサートを見たばかりだったので、驚きだった。

今年5月に来日予定だったが、腕を骨折したため、9月に延期していた。ステージのアズナブールさんはヒット曲の「帰り来ぬ青春」「ラ・ボエーム」など20曲以上を歌い上げ、その2週間後に亡くなるなんて信じられないような、エネルギッシュなコンサートだった。最後の輝きだったのだろうか。

彼の訃報は旅先のベルギーで知った。ベルギーはフランスの隣国で、南部地方ではフランス語が公用語とあって、宿泊したホテルでもフランスの放送局の映像が流れていた。午前中、フランスのニュース番組を見ていたら、急にライブ映像に切り替わり、アズナブールさんの葬儀の模様が中継された。そこにはフランスのマクロン大統領をはじめ、歴代の大統領も出席する準「国葬」の扱いだった。

アズナブールさんの父はジョージア(旧グルジア)、母はアルメニアの出身。両国とは深い関係があり、アルメニアの大統領も同席した。両親は米国に渡ろうとパリに立ち寄ったが、結局、そのままパリに居ついた。生活は貧しく、アズナブールさんは9歳で、芸能活動を始めた。生きるためだった。それから85年、準「国葬」で天国に召された。アズナブールさんはいわば「移民」出身だったが、今のヨーロッパで問題になっている移民問題をどう思っていたのだろうか。