映画「宮本から君へ」(真利子哲也監督)が、文化庁所轄の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(芸文振)から3月に助成金交付を内定されながら、出演者の電気グルーブ・ピエール瀧(52)がコカインの使用、所持で有罪判決を受けたことを理由に「公益性の観点から適当ではないため」との理由で下された、助成金不交付決定処分の取り消しを求めて20日、製作側が芸文振を提訴した。映画のエグゼクティブプロデューサーで製作会社スターサンズの河村光庸代表取締役と弁護団が同日、都内の司法記者クラブで会見を開いた。

「宮本から君へ」は、90年に漫画誌「モーニング」で連載された新井英樹氏の漫画が原作。文具メーカー「マルキタ」の営業マン宮本浩の愚直なまでの生き様を描き、池松壮亮主演で18年にテレビ東京系で連続ドラマ化(全12話)され、ドラマをを経て映画化され、9月27日に公開された。

映画は3月12日に本編が完成したが、同日に出演者のピエール瀧が麻薬取締法違反で逮捕された。芸文振は同29日の段階で、スターサンズに助成金交付内定の通知を送っていたが、4月24日に関係者の試写をした際、ピエール瀧の出演シーンの編集ないし再撮の予定を製作側に尋ねた。その際、編集などの意思がないとの返答を受け、6月28日に不交付決定を口答で伝え、7月10日付で不交付決定通知書を送った。

河村氏は企画、製作した映画「新聞記者」(藤井道人監督)が、官邸を批判的に描いたとして評判を呼び、同作品は興行収入5億円を突破と大ヒットした。今回の助成金不交付は「新聞記者」の大ヒットを受けた、嫌がらせではないか? と見る向きもある。ただ、同氏は「(嫌がらせは)ない」と言い切った上で「なぜならば私としては、この不交付については、もっと、もっと根が深く、非常に大きな問題が横たわっていると感じる」と主張した。

河村氏は、大きな問題として「政治家、官僚が全く意識しないで法律、憲法を逸脱したり、憲法違反の行為が日常的に行われているような気がしてならない。違法、違憲を全く意識していないのが恐ろしい。芸術、文化にまで手を伸ばしてきた恐れがある」と訴えた。その上で「為政者の重苦しい空気、そのものがメディアにまで浸透している気がしてならない。それを忖度(そんたく)、同調圧力と称するのだと思う。何とも言えない不自由、不寛容の空気が、日本に怪物のように横たわっているのじゃないか? 今の空気を打破して不自由な、不寛容な社会を選ぶのが、岐路に立っている中で1つの問題提起をしたい」と提訴の意図を説明した。

ピエール瀧は「宮本から君へ」で、宮本の前に立ちはだかる真淵拓馬(一ノ瀬ワタル)の父、敬三を演じる。ただ、弁護団の平裕介弁護士は「(本編129分中)瀧の出演したのは11分で、出演率は9%に満たないという。原告側は十分、調査していないのではないか、過大評価しているのではないか」と主張した。

「宮本から君へ」は、第32回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原プロモーション協賛)で、池松が主演男優賞、真利子監督が監督賞を受賞しており、ヨコハマ映画祭でも主演男優賞、撮影賞を受賞。河村氏によると、他の映画祭、賞でも複数の内定があるという。また「新聞記者」も、日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞で作品賞を受賞している。【村上幸将】

◆「宮本から君へ」 90年に漫画誌「モーニング」で連載された新井英樹氏の漫画を原作に、池松壮亮主演で18年にテレビ東京系で連続ドラマ化(全12話)。正義感が強く、人一倍不器用な文具メーカー「マルキタ」の営業マン宮本浩が、仕事や恋愛に愚直なまでに向き合う生き様を描いた。9月27日公開の映画は、会社の先輩・神保(松山ケンイチ)の仕事仲間の、中野靖子(蒼井優)と恋に落ちた宮本に訪れた、愛の試練を描いた。第32回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞で、池松が主演男優賞、真利子監督が監督賞を受賞。