クラウドファンディングのプラットフォームを運営する「モーションギャラリー」が8日、日本で初めてクラウドファンディング・プラットフォームが運営に携わる映画館として東京・下北沢にミニシアター「K2(ケーツー)」を22年1月に立ち上げると発表した。

「下北線路街」の商業施設、シモキタエキウエ直結の「(tefu)lounge(テフ ラウンジ)」に、1スクリーン、70席のミニシアターとして設置。こけら落とし上映作品は、3月のベルリン映画祭で審査員大賞(銀熊賞)を受賞し、今年の第22回東京フィルメックスで観客賞も受賞した濱口竜介監督(42)の「偶然と想像」(12月17日公開)に決まった。オープンに先駆け、8日から1日館長、内覧会への招待やオリジナル雑誌創刊記念号などをリターンとした、クラウドファンディングを開始した。

「K2」立ち上げの目的は、映画が持つ力を体現する場として下北沢という街の文化性に貢献し、活気をもたらすことにある。映画の多様な側面に光を当てて「学び」を、映画館として発信・共有するようなチャレンジとして

<1>上映作品の面白さや背景を深掘りする雑誌「K2」を、ほぼ月刊のイメージで発刊

<2>ベーシック・インカムプラットフォーム「BASIC」を使って月額参加型のファンコミュニティーを立ち上げ、上映作品の関連作品や、同時に鑑賞することで新たな意味が生まれるような作品をセレクションしての、オンラインスクリーンでの特別上映プログラムとして配信し、観客に自宅でも作品の世界観や映画体験を広げていく体験と学びを提供

を展開する。

「K2」立ち上げは、2019年(平31)に小田急線東北沢駅から世田谷代田駅の地下化に伴い、全長約1・7キロの線路跡地を開発して生まれた下北線路街が立ち上がり、新しい映画館を作れないかと相談が舞い込んだことに端を発する。翌20年1月には新型コロナウイルスの感染が拡大し始め、全国ではビジネス的な目的よりも文化的な目的に向けて運営されていることが多いミニシアターと呼ばれる単館系の映画館の客足が落ち、存続の危機に立たされた。その支援を目的として、同年4月13日に始まったクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」は、モーションギャラリーの大高健志代表も発起人を務め、同5月15日の締め切り段階で、目標額の1億円を大きく上回る、3億3102万5487円が集まり、参加した118のミニシアターに分配された。

コロナ禍の中で、ミニシアターは街の文化を映す鏡、文化の多様性を教えてくれる場所という社会的意義が、映画ファンだけでなく一般の市民の間でも改めて共有、認識された。その中で演劇、ライブハウス、サブカル、飲み文化…さまざまな文化が深く根付く“聖地”下北沢に、それぞれの文化の結節点であり“シモキタ”を愛する人達の共有地として位置づけられるミニシアターを作れば、他の街とは絶対に違う、新しい映画館のかたちを生み出していけるという思いから「K2」立ち上げが決まった。

コロナ禍に新しく生まれる映画館として、劇場公開に連動したバーチャル・スクリーン「Reel」を設置し、オンラインとのハイブリッドにより持続可能な劇場公開の仕組みにも取り組む。「Reel」で上映される作品は、映画館で実際に上映されている期間に限り有料でオンライン鑑賞でき、売上の一部は、その作品を上映している各劇場に均等に配分する。オンライン上映で発生する利益を、デジタルが浸透している都市だけでなく地方の劇場にも等しく分配することで、日本全体の映画文化を担保し続けようとするアクションでリアルとバーチャルでの映画鑑賞の体験を相互に補完する狙いもある。第1回作品は「K2」のこけら落とし上映作品である「偶然と想像」に決まった。

大高代表は「文化の公共性である映画館を、下北沢に関わる人たちが主役となるコモンズとして運営していくことで、きっと下北沢に、そして映画文化に貢献することが出来るのではないかと考えています。もしかしたら向こう見ずな挑戦かもしれませんが、ぜひ1人でも多くの方に応援いただき、そして1人でも多くの人に『映画館で映画を見る時間』をより良く届けることが出来るように頑張って行きたいと思います」とコメントした。

クラウドファンディングは、ページが立ち上げられた8日午前10時から22年1月31日午後11時59分までで、目標金額は300万円に設定された。リターンは

・ちょっと気になるので応援(500円)

・映画鑑賞券で応援(3500円)

・K2オリジナルZine+Tシャツで応援(1万円)

・「ハイロック×K2」スペシャルコラボTシャツ1枚で応援(1万5000円)

・K2応援アイテム全部入りで応援(3万円)

・K2立ち上げサポーターになって応援(5万円)

半日館長になって応援(10万円)

・K2スペシャル立ち上げサポーターになって応援(25万円)

・1日館長になって応援(25万円)

が用意された。資金の主な使い道は現在、完成に向け着々と工事が進捗(しんちょく)している一方、今後、開館に向けて発生する体制の確保や、上映以外でも積極的に作品の魅力、背景にある歴史などを伝えていくような取り組みをオンライン配信や冊子、イベントで行っていくための初動費用となる。