第75回カンヌ映画祭授賞式が28日(日本時間29日)フランスで行われ、コンペティション部門に出品された、是枝裕和監督(59)初の韓国映画「ベイビー・ブローカー」(6月24日公開)に主演のソン・ガンホ(55)が、韓国人俳優として初の男優賞を受賞した。是枝監督は授賞式後、日本メディアの囲み取材に応じ「英語圏で撮ってみたい」と、さらなる挑戦への意欲を口にする一方、日本映画界は「何年かこのままいくと手遅れになる」と痛烈なメッセージを送った。

是枝監督は「ベイビー・ブローカー」を韓国の映画社ジップと製作し、配給は同国映画界の最大手CJエンターテインメントと、韓国映画界の枠組みで製作した。18年の「万引き家族」でカンヌ映画祭の最高賞パルムドールを受賞して以降、19年に初めてフランスとの国際共同製作で映画「真実」を製作しており2作連続、海外で映画を製作した。

今回、パルムドールこそ逃したものの、ソン・ガンホが韓国人俳優初のカンヌ映画祭男優賞を獲得した。そのことについて「1つの結果ではあるとは思いますけど、まだもうちょっと自分で検証が済んでいないので、もう少し自分でやれたことと、やれてないことをチェックしないと、本当に言葉の分からない国で撮っても大丈夫だよと自分で言えるかは、まだ分からないです」と評した。

取材陣から「ハリウッドもあるんですかね?」と米国進出の可能性を問われると、是枝監督は「ハリウッドと言うと大きくなってしまいますが、英語圏で撮ってみたいというのはあるので、いつになるか分かりませんけど、今回の総括が済んだら考えてみようと思います」と語った。

さらに、取材陣から「英語圏で撮りたいのは、より広い観客に向けたいからか?」と聞かれると「いえ、撮りたい役者がいるからです。それは内緒です」と笑いながら即答。その上で「まだそこの(話が決まる)段階まではいかないのですけど、いろいろ働きかけもあるので、それは役者ではなくても。いろんな動きがあるので。それはチャンスがあるならば」と語った。

一方で、日本映画界への危機感も口にした。今回のカンヌ映画祭では、パク・チャヌク監督が「DECISION TO LEAVE」(英題)で初の監督賞を受賞と、韓国映画界が主要賞2部門を獲得した。また配信ドラマでも、Netflixの「イカゲーム」が世界的にヒットしている。是枝監督は韓国映画界から持ち帰るものがあるかと聞かれると「学ぶことも、たくさんありましたし、そのことで日本の映画の、映画だけに限らないかもしれませんが映像産業、映画文化も含めて変えなければいけないところは明快になってきているはずで」と口にした。

その上で「でも、それは監督だけでは出来ないので、日本の映画界全体が危機感を持つべきだと僕は思いますし、多分もう何年かこのままいくと手遅れになるなと個人的には思っていますので」と、日本映画界、映像界に強烈なメッセージを放った。そして「何かしらのアクションを促し、自分自身は今回のことを、いろいろな勉強と反省を持ち帰って、また日本で撮りながら、またチャンスがあれば海外でいろんな方たちと組んで吸収して持ち帰って、その繰り返しですね」と語った。

是枝監督は26日(日本時間27日)に行われた公式上映後に、日本メディアの囲み取材に応じた中で「決して、もう日本で撮らないというわけではなくて、日本での企画も、きちんと動かしていますし」と言及。今年には、Netflix初のシリーズ「舞妓さんちのまかないさん」の配信も決定しており「海外で撮ったことを、僕の演出だけではなくて、その経験を、どう日本の中での映画作りというのにフィードバックして、何を変えていくべきなのか、何はそのままで良いのかとか、いろいろなことを持ち帰りたいと思っているので」と語っている。