演歌歌手工藤あやの(28)が17日に都内でコンサートを行いました。

終演後のあいさつで「迷いもあったけど、これまでやってきて良かった」との趣旨の話を涙ながらにしていました。「んっ? 迷い」だって…。この日は出稿時間に追われて確認できませんでしたが、気になっていました。

工藤は21年1月に新型コロナウイルスに感染しています。病気はやがて治ったのですが、後遺症の影響なのか、2~3カ月は声が思うように出ず、喉にも違和感があったそうです。

感染から約1年前の19年11月にシングル曲「大阪花吹雪」を発売。でも、コロナ禍で20年はほとんど音楽活動ができないまま。1年以上も“休業状態”が続いて「今後どうなってしまうのか…」と先の見えない不安の中でのコロナ感染、そして声の不調でした。

悩みに悩んだ工藤は昨年5月、所属事務所の我妻重範社長に真剣な表情で打ち明けます。「歌手を辞めるか続けるか。8月いっぱいで結論を出したい」。

その直後の同6月に、工藤の恩師の作曲家・弦哲也氏がコンサートを開催。そこで竹久夢二をモチーフにした曲を歌唱したのですが、曲を聞いた我妻社長が「こういう大正ロマンの曲を工藤に歌わせたい。絶対に合う」と直観的に確信。すぐに動き始めました。

早くも翌7月には原文彦氏の直筆の歌詞が我妻社長の元に届きます。それを手にした工藤は涙をこぼしながら、文字を目で追いました。我妻社長は「この瞬間に気持ちが切り替わった。工藤に歌手としてのスイッチが入ったんです」と振り返ります。「歌手を辞めるか結論を出す」という期限の8月に間に合いました。

弦氏が作曲をして出来上がったのが今年1月発売の「白糸恋情話」。泉鏡花の名著「義血侠血」をテーマにした作品です。

1度は引退まで思い詰めた工藤が、今では生まれ変わったように「命をかけて歌っていく」と決意を語っているそうです。

デビュー直後から工藤を見ているのですが、不器用で表裏のないストレートでいちずな性格です。そこが魅力でもあるのですが、柔軟性に欠けるとも言え、もろさにもつながりかねません。

これまでに多くの先輩歌手たちが工藤と同じように歌の道に迷い、悩みました。歌の道から1度外れ、復帰した有名歌手は何人もいます。二葉百合子さんの言葉をかりると、工藤も「歌の壁にぶつかった」と言えるのかもしれません。

来年に10周年の節目を迎えます。これから何度も「歌の壁」にぶつかるでしょうが、ファンのためにも歌い続けてほしいなと切に願っています。スポーツ紙的な表現でいえば、1度どん底を味わったので、後はV字回復あるのみです!【松本久】