9月に88歳で死去した作家山崎豊子さんのデビュー小説を映画化した「暖簾(のれん)」(1958年、宝塚映画)が、東京都杉並区の名画座「ラピュタ阿佐ケ谷」で上映され、映画に主演した俳優森繁久弥の次男森繁建(たつる)さん(71)がトークショーを行った。

 同館が商店を舞台にした映画を特集上映している「千客万来

 にっぽん暖簾物語」(来年1月4日まで)の1本。映画「暖簾」の写真はこの特集のポスターにも使われた。建さんは、生誕100年を祝う会が先月開かれたばかりの父親について思い出を語り、あまり知られていない「暖簾」誕生秘話も明かした。

 「あるとき、山崎という新聞記者が父に会いに来て、生原稿をどさっと置いていきました。あまりに面白いので、父は徹夜で読み、山崎さんから舞台化の許可を取り付けたと、著書『こぼれ松葉』に書いています」

 その生原稿こそ、山崎さんが大阪で昆布商を営む生家を描いた「暖簾」だった。森繁は、57年の東京・芸術座のこけら落とし公演にこの作品を選び、劇作家菊田一夫が脚色して舞台公演が実現した。

 「父は山崎さんの(作家としての)卵の殻を割ったとも言えるでしょう」。同年出版された小説「暖簾」は、翌年映画となる。

 この映画の川島雄三監督はことし没後50年。辛口の人物評を吐くことで知られた森繁だが、早世した川島の才能を惜しんだという。建さんは「父が生前褒めちぎった映画監督は川島さんとマキノ雅弘さんだけでした」と振り返った。

 特集上映「千客万来-」では29日から、川島監督、森繁主演の「喜劇とんかつ一代」も上映される。