谷村新司の前世は中国人だった?
歌手谷村新司(59)は、五輪開会式を現地で「ひとごととは思えない」という気持ちで見つめていた。81年、北京のコンサートで初めて中国にポップスを導入してから27年。今では上海音楽学院教授として、中国人の若者に音楽を伝えるなど中国とのつながりは深い。代表曲「昴(すばる)」は、開幕式当日、各国元首昼食会で演奏された。「過去生は中国大陸にいたかもしれない」と話す谷村は、五輪、再来年の上海万博を「中国にとってはすごく大きなチャンス」と感慨深く思っている。
谷村は8日夜、NHK生中継特番「北京オリンピック開会式」に現地から生でゲスト出演。熱い盛り上がりを、感慨と、心配を抱きながら見ていた。
谷村「感慨にふけるよりも『開会式は大丈夫かな』とすごく心配で、ひとごとではない感じがしていた。アジアでこれだけ大きな世界的イベントができる。それは、同じアジアに暮らしている自分にとって、決して『ひとごと』じゃない。6日に北京入りしたが、街に緊張感を感じた。こんなに整然とした北京は初めてで、開幕にかける中国の強い意気込みを感じた」。
中国との「出会い」は27年前。81年8月、北京で3人グループ、アリスとして、2日間にわたって計2万人規模のコンサートをしたのが中国を訪れた最初だった。
谷村「81年に見た北京の街と今の北京の街はこれほどにも変わって、オリンピックが開催できるまで中国のみなが頑張ってきたんだ…と、そのことだけでもすごく感慨深い。まず景色が全然変わった。81年のころは(ホテルの)北京飯店くらいしか高い建物がなかったが、今はその北京飯店が埋もれてしまうくらい高いビルがいっぱい建った」。
81年のコンサートは中国の音楽史上、歴史的な日でもあった。「ポップス」と「ノル」という感覚を中国に導入した日だった。
谷村「『ポップス』を中国の人が初めて見た瞬間だったので、『中国に初めてポップスが流れた日』と言われた。お客さんは当初『ノル』ということへの理解がなく、どう対処していいか分からない戸惑いがあった。そこで客席に降りていって、メーンゲストの鄧小平さんの目の前までいきリズムをとった。そしたら鄧さんが最初に立ち上がって手拍子をし始めた。直後、1万人がドーンと立ち上がったんです」。
客席が「ノリ」を覚えた瞬間だった。そのコンサートで歌った曲が、谷村の代表曲「昴(すばる)」。会場で何人かの中国の歌手に日本語で教えたのが広がり今や中国、そしてアジアの愛唱歌になった。開会式当日の8日、中国の胡錦濤国家主席(65)が開いた各国首脳を招いた昼食会で、「昴」は「アジアの代表曲」として演奏された。「昴」が描く風景は、幼少期から谷村の頭の中に浮かんでいたものだった。
谷村「小さいころから、目を閉じるといつも浮かんでくる原風景のような風景が1つあった。それを歌にしたんです。曲を作った当時は中国の北部、黒竜江のさらに北のほうなのかなーというイメージがあった。ただ最近、その景色が本当に地球上にあるものなのかどうか、不安になってきてるんですが(笑い)」。
名門・上海音楽学院からの依頼をうけ、04年から同学院の常任教授も務めている。月1回、約1週間滞在して若者らに音楽や音楽の「ココロ」を教えている。
谷村「中国は『自信』をつけていけば、世界に通用するアーティストがいっぱいでてくると思う。上海音楽学院の生徒はエリートたちなんですが、両親が共働きして学校に行かせてもらっている生徒もいる。そんな女子学生から『学校に通わせてくれる両親に、恩を返したい』と言われた時、僕らが忘れかけていた大事なことを、反対に教えてもらった気がしました」。
昔から、どこか中国とのかかわりのようなものを感じていたという。
谷村「今思い返せば、中学1年生の時(地元の)『中国貿易展』になぜか行って、ジャスミン茶を買ってきている。中1でなぜ中国貿易展に行ったのか今でも分からないが(笑い)、なぜか中国にはひかれてたのかな。過去生にさかのぼっていくと、自分は中国大陸のどこかにいたのかなという気がすごくしますね」。
谷村は日中国交正常化35周年の昨年、上海と南京でコンサートを成功。南京芸術学院の名誉教授にもなった。最近、中国をめぐるさまざまな報道が連日流れている。
谷村「中国人の考え方、感性を、日本人はもう少し知るべきだろうし、中国人たちも日本人の感性を知るべき。互いに、『マイナスな出来事があった』という1つの面の報道だけで、互いの国を『こういう国だ』と決めつけてしまうことが一番危険だと思う。オリンピックや万博では実際に街の中で人と人が触れ合う。触れ合ったその人がいいヤツで好きになれば、その国も好きになっていくんですよね。中国人とは本音でケンカすると、すごく仲良くなれる。2年後には上海万博もある。『人と人』っていう原点がこれから生まれていく、いいタイミング。中国にとっては今、すごく大切なことを学ぶチャンスだと思う」。【広部玄】
[2008年8月10日8時39分 紙面から]
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