女優森光子が9日、89歳の誕生日に「放浪記」2000回を東京・帝国劇場で達成した。1961年(昭36)の初演以来、単独主演の舞台として前人未到、世界で例のない大記録。王貞治氏、和田アキ子、中村勘三郎、東山紀之らも駆けつけ、カーテンコールでは総立ちとなって拍手が鳴りやまなかった。41歳で初めてつかんだ主演舞台で2000回達成の森は「これからはまじめで表現の豊かな女優になりたい」と生涯現役を宣言。秋には新作舞台が待っている。

 61年10月20日に芸術座で初日の幕を開けた「放浪記」が、2000回目のカーテンコールを迎えた。舞台中央に正座した森が客席の隅々に視線を送り、三方礼で頭を下げた。「2000回達成」の大看板を前に森、山本陽子ら42人の出演者が並んだ。客席のゲストが次々とお祝いを述べたが、和田も勘三郎も感激の涙で顔はぐしゃぐしゃ。和田は「2、3月は元気がのうて大丈夫かなと思った。『無理せんでいいよ』と言ったら『お客さまが待っている』と言うんです」と打ち明けた。

 1月の出版会見で森は「引き際を考えていないことはありません」と珍しく弱気な言葉を口にしたが、大事な試合に心身のピークを持ってくる超一流アスリートと同様に、この公演に照準を合わせていた。けいこでは周囲も驚くほどはつらつとして共演者を引っ張った。山本は「精神力と肉体的強さに感服しました」と話した。

 昨年はでんぐり返しをやめて万歳三唱になったが、今回も売れっ子作家となり書き机で寝る場面を正座から小さないすに座る形にするなど、森に配慮した演出に変更した。この日も上演時間3時間10分のほとんど出ずっぱりで、20歳から晩年の46歳までの芙美子を演じ切った。勘三郎は「演劇史上の歴史に残る日にいられて幸せ」と涙ぐんだ。森は「2000回を待っていましたが、来てしまうと、申し訳なさと恥ずかしい気持ちになります。これからはまじめで表現の豊かな女優になりたい」と前向きに話した。29日に千秋楽を迎えるが、秋には新作舞台を予定。来年以降の「放浪記」上演に意欲をみせている。

 [2009年5月10日9時11分

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