<第60回NHK紅白歌合戦を語る(8)=五木ひろし>

 39回目の出場を決めた五木ひろし(61)。71年に「よこはま・たそがれ」で連続出場の幕が開き、森進一の42回に続く歴代2位を誇る。さらに輝くのが昨年までの38回出場のうち、新曲を36回も歌っていること。これは毎年ヒットを飛ばしていることの証明だ。偉大な足跡を残す五木の原点は初出場の時にあるという。

 「紅白に出たいという思いの1つが、苦労をかけたおふくろを早く楽にさせたかったこと。念願の初舞台を終えて、感動と緊張と興奮と、いろいろな思いを持っておふくろのところへ急ぎました。『どうだった』と聞くと『何も見ていなかった』と言うんです。うれしくて涙が止まらずに、テレビの映像を見ることができなかったと。声だけを聞いていたそうです」。

 この日、楽屋を出る際に2つのことを固く心に誓った。「『五木』という名前にちなんで5年は続けて出ることと、トリを務めることでした」。

 それから4年後。「千曲川」であっさりと2つの夢をかなえてみせた。「今の僕がここにいる歴史のスタートが初出場の時の楽屋での誓い。当時考えられるのは、せいぜいが5年先だった。その積み重ねで今年も紅白で1年を終えられるのは本当に幸せです」。

 NHKの視聴者調査で、五木は常に出演してほしい歌手の上位にランクインしている。なぜだと思いますか?

 聞いてみた。答えは「自分なりの1曲入魂へのこだわり」だという。大切なのは今現在で、過去の栄光には目を向けないと強く言い切った。

 「その年にどう頑張ったかがすべて。紅白が終わった翌日から、今年はどうしよう。ヒットを飛ばそう。もっと頑張ろうと考える。毎年ヒットを飛ばしたいという思いは『よこはま・たそがれ』の時と何ら変わっていませんし、これから先も変わりません」。

 トップランナーであり続けるプレッシャーさえ感じないほどの闘争心。言葉の端々から、草食系の表情からは想像もできないようなヒット曲へのこだわりが伝わってくる。「新曲を出す。それを多くの人に支持していただく。そこへの挑戦はこれ以上の楽しみと喜びはない。紅白の歴史が続く限り、五木ひろしの歴史も作っていきます」。

 今年でデビュー45周年を迎えたヒットメーカーには、“歌謡界のイチロー”の称号がふさわしい。【松本久】

  ◆五木(いつき)ひろし

 本名・松山数夫。1948年(昭23)3月14日、福井県生まれ。64年に「松山まさる」としてデビュー。「一条英一」「三谷謙」と芸名を変更するもヒットに恵まれず、71年に「五木ひろし」としてのデビュー曲「よこはま・たそがれ」がミリオンヒット。「おまえとふたり」「長良川艶歌」もミリオン突破。歌手としてだけでなく、作曲家、俳優としても活躍。04年に芸術選奨文部科学大臣賞。07年に紫綬褒章。

 [2009年12月25日8時3分

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