歌舞伎俳優市川海老蔵(33)が昨年11月に暴行を受け重傷を負った事件で、傷害罪で起訴された元暴走族メンバーの伊藤リオン被告(27)の初公判が18日、東京地裁で開かれた。検察、弁護側の双方が、事件前に海老蔵が元暴走族リーダーらに執拗(しつよう)に酒を勧め、挑発行為もあったことを認めた。弁護側と証人出廷した元リーダーは、海老蔵が吸い殻の入った灰皿にテキーラを入れて飲むように強要し、先に暴力行為をしたなどと主張。伊藤被告は起訴事実を認めたが、海老蔵のこれまでの主張が「欠席裁判」で否定された。

 自身不在の法廷で、海老蔵が苦境に追い込まれた。伊藤被告の弁護側のみならず検察側の冒頭陳述でも、海老蔵が同被告や元リーダーらに飲酒を強要し、胸ぐらをつかむなどの挑発行為に及んだことが明らかになった。昨年12月の会見で、海老蔵が否定していた挑発行為を検察側が冒頭陳述で認めた事実は重い。

 検察、弁護側双方の冒頭陳述で示された事件当日の様子は、ほぼ一致した。海老蔵は昨年11月25日深夜に東京・西麻布のビル11階の飲食店で元リーダーと飲酒し、その後同じビルの6階の飲食店に移った。午前5時過ぎに元リーダーを迎えに来た伊藤被告ら3人にも飲酒を勧め、断られた後、11階の飲食店に戻り飲酒を続け、泥酔した元リーダーの体を揺するなどした。元リーダーが床に転落したところで、「やめて下さい」と仲裁に入った伊藤被告の胸ぐらをつかむなどし、怒った同被告から殴る蹴るの暴行を受けたという。

 そして海老蔵が「記憶はございません」と否定してきた「灰皿テキーラ」についても、弁護側が冒頭陳述から指摘した。海老蔵が元リーダーを迎えに来た伊藤被告を含む3人にシャンパン3本を注文し「テーブルに座れ。かけつけだ」と言い飲酒を強要。伊藤被告は「車なんで」と断ったが、別の1人に吸い殻の入った灰皿に酒をつぎ飲むように命令したとしている。その人物は飲むふりをして、灰皿を机の下に置いたという。弁護側証人として出廷した元リーダーは、灰皿に注いだ酒は「多分テキーラだと思う」と証言。検察側も伊藤被告や元リーダーの供述調書から「被害者(海老蔵)が灰皿に酒を入れ、友人に飲めと言った」という部分を紹介した。

 暴行については、弁護側の冒頭陳述と元リーダーの証言、海老蔵以外の供述調書から、海老蔵が酔った元リーダーの頭頂部の髪を引っ張った上、止めに入った伊藤被告に対し「後輩のくせに生意気だ」と灰皿を振り上げ、胸ぐらをつかんだという状況が浮かび上がってきた。さらに仲裁に入った元リーダーに頭突きをしたという。元リーダーは「いきなりで、あっけにとられ尻もちをついた。ボクシングのフラッシュダウンみたいな感じ。両方の鼻から血が出た」と話した。

 また、海老蔵が元リーダーと「初対面」と主張したことについても、元リーダーは否定した。「3年ほど前に紹介されて初めて会った。後輩に酒を強要し、口論になったのでいい印象がなかった。去年ぐらいに知り合いの俳優の伊藤英明さんを通して電話で話しました」。事件当日も元リーダーは同席を避けていたが、店長の顔を立てて同席したと言い、「(海老蔵は)女の子にもイッキをさせていました」と証言した。

 伊藤被告は起訴事実について「はい。大丈夫です」と認めた。3月3日の次回公判では、被告人質問が行われ、結審する予定。被告、元リーダーと示談した海老蔵の出廷はない。