19日午前、東京都内の病院で死去した俳優原田芳雄さん(71)が、03年7月13日の日刊スポーツ「日曜日のヒーロー」に登場しています。当時の紙面を復刻版で再録します。■60過ぎた今でもボクシングで「反応」磨く

 青春時代は対人恐怖症に悩まされた。原田芳雄(63)。俳優になったことでトラウマと決別し、今は「新しい出会い」「驚き」を求め続けるようになった。押しも押されもせぬ大ベテランは、若手監督や俳優との演技の応酬を楽しむため、ストイックなトレーニングを積んで、肉体とともに「反応力」を鍛え続けている。

 足取り軽くインタビュールームに入ってきた。「どうも」。肌のつやもいい。上着のジャンパー越しからでも分かるたくましい上半身。映画の撮影ではアクションだって難なくこなす。今も、自宅にサンドバッグやパンチングボールをつるるし、ボクシングの練習生と同じメニューでトレーニングしていると聞いたことがある。

 「やってますよ、相変わらず。昔みたいに何が何でもがむしゃらにこなさなきゃ、という状態とは変わってきましたけど。ボクシングジムの練習生がこなすメニューを5、6ラウンドやってね。もちろん、年も取ってきましたから、年齢なりに有効なメニューも付け加えてますが、メニューは基本的に変えないんです。そうすれば、日々の調子の良しあしが分かるでしょ。調子がいまひとつだなって時はサーッと引き上げる。そうしないとかえって体に悪いからね」。

 第一線で活躍中の俳優たちで、日々トレーニングを積んでいる話はよく聞く。そのほとんどが、マシンを使うウエイトトレーニングやランニング、水泳など。いわゆる体作りがメーン。原田がボクシングにこだわるのには理由があった。

 「体作りももちろん大切でしょうが、やはりオレは反応が大事だと思うんですよ。俳優同士で芝居するにしたって、演出意図を理解するんだって、撮影現場ではいつどこでも、反応が大切なんです。何がどんな風に自分に迫ってくるのか。すぐ判断して反応しないとダメなんです。だから普通の反復運動だけじゃない、スピードも重視するボクシングのトレーニングはいいんですよ。だから気に入ってるんです」。

 ここ数年、撮影現場で最年長というのは珍しくなくなってきた。

 「例えば時代劇の立ち回りをやってみても、足のスタンスが昔より3分の1ぐらい狭くなっている。自分では踏ん張っているつもりなんだけどね。肉体の運動の面から言えばできなくなることも増えていくだろうけど、できなくなってきたからこそ、できることが見つかるような気がするんです。何か違う見せ方はないのかとね」。

 言葉の感覚や人間関係などの感覚が違う若手俳優から、思わぬ演技のパンチを食らうこともある。

 「そんな時は、打たれちゃえばいいんです。その後こちらも返す。違いを認め合うと、面白いことができる。思わぬエネルギーが生じる。それが楽しくて撮影現場に行っているようなもの。そういうセッションが楽しめるように自分を整えておかないとね」。

 パンチの応酬を楽しんだ若手監督や俳優たちに慕われ、自宅は連日、居酒屋のようなにぎわいだという。

 「何でなんでしょうかねえ(笑い)。仕事が一段落すると集まってくる。夜中だって、『まだ、やってますか?』って連絡が来る。うちは大抵の種類の酒があるから、まるで居酒屋ですよ(笑い)」。