19日午前、東京都内の病院で死去した俳優原田芳雄さん(71)が、03年7月13日の日刊スポーツ「日曜日のヒーロー」に登場しています。当時の紙面を復刻版で再録します。■若手俳優との演技の応酬を楽しむ

 俳優として35年以上のキャリアを持つが、19日公開の映画「ナイン・ソウルズ」(豊田利晃監督)で、運命的な出会いがあった。かつて兄のように慕われた松田優作さん(享年39)の長男で俳優の松田龍平(20)と初めて共演した。もちろん龍平のことは幼いころから知っていた。亡き親友の忘れ形見。何かを感じずにはいられなかった。

 「こういう日が来たんだなあと。龍平が、4年前に『御法度』でデビューして、その年の映画賞の表彰で、同じステージに立ったことがありました。あいつは隅っこの方にいてね。感慨があったね。それがこうして同じカメラの前で一緒にやるなんて、ないことはないと思っていたけど、こんなにすぐにそれが来るなんて思わなかった。やはり運命を感じるね」。

 映画は脱獄した9人の男が、互いに反目しながらも行動を共にするうちに仲間意識が芽生え、やがてそれぞれの思いをかなえようと必死にもがいていく姿を描いている。原田は息子殺しの父親。龍平は父親殺し。合わせ鏡のような関係だ。田んぼで泥まみれになりながら、取っ組み合いするシーンも登場する。全身真っ黒になった2人が、こん棒を持って追いかけ合い、殴る、そして蹴り上げる。

 「バカでしょ、俳優って(笑い)。それにしてもひどいことさせるよねえ、映画って(笑い)」。

 龍平が殴りかかってから2人がへたり込むまでの約2分間、カメラは1度もカット割りすることなく、1シーンを撮りきった。原田も「殺せ!」と怒鳴りつけながら、へとへとになるまで激しく動いた。

 「あれはもう芝居じゃなくてドキュメンタリー。もう動きはぐちゃぐちゃになって、動きはアドリブになっていく。龍平もどんどんカッカしてくるしね(笑い)。あいつはカットがかかると、静かにしている方なのに、その時はもうクールダウンできなくて、終わった後も興奮してしゃべりっぱなしですよ」。

 龍平を見ているうちに、自分や優作さんのデビュー時がオーバーラップするという。

 「今はものすごく加速がついている時期だろうから、小さな石につまずいても勢いで乗り切ってほしい。加速しているから、前のめりに頭から倒れるけど、そのまま突っ走っていけばいい。どんどんクソ生意気にエゴイスティックにやっていけばいい。それにしても背中の曲がり方、長い手足を持て余し、その手足をたたむように寄りかかる姿なんて、優作にそっくり。あいつ(優作さん)には、やっぱり似ているよって言ってやりたいね」。