人気歌舞伎俳優中村勘三郎さんが5日午前2時33分、急性呼吸窮迫症候群のため東京・文京区の日本医科大付属病院で亡くなった。57歳だった。

 大竹しのぶ(55)が戦友の死をしのんだ。この日は中村勘三郎さんが絶賛した主演舞台「ピアフ」再演(来年1月16日~2月13日、東京・日比谷シアタークリエ)の会見だったが、未明の臨終に立ち会った大竹の目は真っ赤。「不思議なタイミングですよね。愛のある人だった」と振り返った。

 大竹は臨終に立ち会い、都内の自宅への無言の帰宅にも付き添った。20歳の時に舞台「若きハイデルベルグ」で共演して以来の大親友で、演劇という戦場で闘い続けた戦友だった。

 「役者としてはもちろん、人間的にあんなチャーミングな人はいない。細やかで、ゴミを片付ける人、幕を引く人、すべてのスタッフさんにとてつもない愛を持っている人だった。会った人は必ず彼を好きになるし、後にも先にも彼みたいな人はいない。芝居に対する思いもそうですし、いないと困る人です」

 時間があると、見舞いに駆け付けた。「(食道がん)手術後2日目にICUの中を歩いていた。その時、拍手したら『大竹しのぶに拍手もらっちゃった』と看護師さんに自慢していた」。人工肺を着けて会話ができない時は「ふざけて投げキスのマネをしたり、私がピストルで撃つマネをすると、死ぬマネをするんです。すごい人だと思った」。病気と闘う戦友に「まじめだし、素晴らしい患者だった。病院のスタッフにも本当に愛され、『僕たちが教えられた』と言ってました。すべての人に何とか治ってほしいと思われていた」と無念そうに話した。

 互いに出演する舞台は必ず見ていた。「とにかく会うと芝居の話ばかりしていたし、芝居の話をする時は楽しそうでしたね。いつも2人になったら、褒め合ってましたし、いい芝居をしないと怒られるんです。これから演劇界は彼をなくして、どうなっちゃうんだろうというのが正直な気持ち。でも、頑張らなきゃなと思う」と、天を仰ぎながら誓った。【林尚之】