<連載「気になリスト」(37)>

 10年に亡くなった劇作家つかこうへい氏(享年62)最後の秘蔵っ子、馬場徹(25)がつか氏の代表作「広島に原爆を落とす日」(4~8日、東京・俳優座劇場)に主演する。馬場は小さいころ、Kリーグ大田シチズンに所属する兄の馬場憂太(29)とともにサッカー選手を目指した。しかし、小学4年の時、試合中に激しいタックルを受けて足に大けがを負い、1年間も療養生活を送った。

 「サッカー選手の夢を諦めました。療養中は毎日のように映画を見ていた。特に洋画のアクション映画が好きで、俳優になりたいと思うようになりました」

 小学6年で児童劇団「ひまわり」に入り、子役を経て、若手俳優ユニット「PureBOYS」で活躍。そんな時、つか氏作・演出の新橋演舞場「飛龍伝2010ラストプリンセス」のオーディションを受けた。

 「何人かと一緒と思っていたら、つかさんと1対1だった。すぐに『じゃあ、やろう』とせりふの口立てを受け、約1時間も続きました。緊張したせいで、過呼吸になってしまった」

 結果は合格だった。

 「怖い人というイメージだったけれど、一生懸命やっていると、やった分だけ認めてくれた。眠れない毎日だったけれど、やるしかないと覚悟を決め、必死に食らい付きました」

 稽古直前、つか氏はがんで入院。病床で演出指示を出し、馬場のやる気を認め、せりふも増えていった。

 「つかさんの舞台を1回やると、ほかの舞台が物足りなくなる。それだけ肉体的にやっている感がすごい。つかさんのスケール感、世界観がすてきだし、せりふもきれいなんです」

 つか氏の死後、馬場は「熱海殺人事件」で木村伝兵衛部長刑事、「新・幕末純情伝」で坂本龍馬を演じ、今回の「広島に原爆を落とす日」ではディープ山崎少佐役で主演する。

 「つかさんに『芝居をしなくていい』『目の前にいる人に思いをぶつけるだけでいい』と教えられた。つか作品を演じ続けたいし、いつかは『蒲田行進曲』の銀ちゃんをやりたい」

 つか氏最後の舞台で、最初で最後となる薫陶を受けた男の夢は、ハリウッドで映画に出ることだという。【林尚之】

 ◆馬場徹(ばば・とおる)1988年(昭63)6月17日、東京都生まれ。06年にミュージカル「テニスの王子様」で初舞台を踏む。大河ドラマ「義経」、映画「夜のピクニック」「幕末奇譚」などに出演。来年はミュージカル「ザ・ビューティフル・ゲーム」「熱海殺人事件」に主演する。180センチ。血液型A。