<連載「気になリスト」(71)>

 「怪魚ハンター」と呼ばれる男がいる。体長1メートル以上の淡水魚「怪魚」を追い続け、世界32カ国で50種以上を釣り上げた。小塚拓矢氏(28)。ダイオウイカブームが追い風となり、怪魚ブームに火が付いた。昨年6月にTBS系「情熱大陸」で取り上げられ、知名度を上げた。真っ黒に日焼けした肌。左肩に自作の釣りざおを下げた姿はまるでサムライのようだ。

 最も印象に残る怪魚に、09年8月にアフリカ中部のコンゴで釣った幻の牙魚ムベンガを挙げた。体長1メートル42センチ、重さ40キロ。「勝った」。それは魚との勝負ではなく、自分自身や批判に勝ったと感じた思いだった。

 出発前、自分のブログで不測の事態に備えた予備費のカンパを求めた。「死ぬぞ」「ファンをやめる」と批判する書き込みが相次いだ。タンザニアでは乗車中の夜行バスが武装集団に銃撃された経験もある。09年6月に現金30万円を持ってコンゴに入国。3週間後、資金不足となり、フランスで資金調達して、コンゴへ再入国した。日本を離れて53日目の再挑戦。執念でムベンガを釣り上げた。「世の中、正直クソだなと思ったけど、批判コメントが俺の闘争心に火を付けてくれた」と振り返る。

 5歳から釣りを始めた。富山県の進学校、県立高岡高に進学し、東北大理学部入学直前の3月末に交際相手に振られた。相手女性に「絶対にビッグな男になってやる!!

 見てろよ」と宣言。怪魚釣りに目覚めた。進学後、バイト代を費やして南米、東南アジアなどで釣行を重ねた。東北大大学院修了後、地元に立ち上げた会社で釣り具の開発・販売をしながら、怪魚を追う旅を続けている。友人の半分以上は医師だ。「進路の後悔は全くない。好きなことでもメシを食えると証明して、世の中の人に、うじうじしているなら飛び出せと伝えたい」。目標の怪魚は残り2種。釣り上げたら「引退します」と潔きよく明言した。【峯岸佑樹】

 ◆小塚拓矢(こづか・たくや)1985年(昭60)9月7日、富山県生まれ。東北大理学部卒業後、同大大学院修士課程修了。12年9月に釣り具開発会社「モンスターキス」設立。ライターとして釣り雑誌への寄稿に加え、地元テレビ局のディレクターも務める。32カ国で「怪魚」も含め一般的な魚250種を釣り上げる。剣道3段。好きなアイドルは乃木坂46橋本奈々未。171センチ。血液型AB。