音楽家坂本龍一(62)が10日、中咽頭がんであることを文書で発表した。今年6月上旬にのどに違和感を覚えて診察を受け、同月末に判明した。年内のスケジュールはすべてキャンセルし、滞在先のニューヨークで治療に専念する。反原発活動に熱心なことから、「放射線治療を拒んだ」との報道もあったが、治癒には不可欠な放射線治療は排除しない方向だ。

 還暦を過ぎても、貪欲に音楽活動に取り組み続けてきた坂本が、予期せぬ病で治療に専念することになった。文書では経緯を説明した上で「多くのみなさまに、多大なご迷惑をおかけすることは深く承知していますが、自分の身体あっての仕事ですから、このような苦渋の選択をせざるをえませんでした」などと説明した。一方で、がんが早期発見だったのか否かには、触れていない。

 関係者らによると、坂本は6月上旬に喉に違和感を覚え、1990年ごろから滞在しているニューヨークの病院で診察を受けていた。そして、同下旬に医師から中咽頭がんを告知され、「早急な治療が必要」と伝えられたという。

 結果、坂本はそのままニューヨークで治療に専念することに決めた。今月19日開催の札幌国際芸術祭2014は、ゲストディレクターとして「2年あまり精魂傾けて準備してきた」と公言した仕事で、今月30日には東京・新宿の「パークハイアット東京」の20周年記念ライブで書き下ろしの楽曲を披露する予定だったが、年内のスケジュールをすべてをキャンセル。心残りの思いも込めて「申し訳なく、残念でなりません」とコメントし、「必ずきちんと治して戻ってまいります」と誓った。

 坂本は近年、環境や平和問題への発言でも注目され、11年3月11日に発生した東日本大震災後は「反原発」の姿勢を鮮明に打ち出してきた。追悼集会で犠牲者の冥福を祈るスピーチをし、官邸前の抗議行動に参加。その活動ぶりを根拠に、今回の病についても「放射線治療を拒否」と一部で報道された。しかし、坂本自身がツイッターでこれを批判。所属事務所は「治療方法については、現在担当の医師と相談して進めていると聞いています」とし、近い関係者も「切除するならともなく、喉のがんを治療するには、放射線治療は不可欠。反原発の考えと治療は別問題」と証言している。

 ◆中咽頭がん

 口を大きく開けた時、口の奥に見える中咽頭に発生したがんのこと。飲み込む時の違和感から、やがてのどの痛み、しゃべりにくさが強くなり、進行すると激しい痛み、出血、呼吸困難など生命に危険を及ぼす症状が出る。国内で年間1000~2000人が発症する比較的まれながんで、喫煙や過度の飲酒を長期間続けることで発生の危険性が高まり、50~60歳の男性に多い。早期発見なら治癒率は高いが、食道や口の中にもがんが発症することもある。