宮城県の企業が中心になって出資し、昨秋に石巻市をメーンにロケされた映画「エクレール

 お菓子放浪記」(近藤明男監督)のプロデューサーでシネマとうほくの鳥居明夫社長(62)が8日、都内で取材に応じた。同作品は、公開目前に発生した東日本大震災による被害で石巻市での上映のメドが立たなくなっているが、鳥居氏は「平和だった石巻市と市民の笑顔が映った映画をいつか石巻で必ず上映したい」と語った。

 作品は戦中と戦後の復興期が舞台。両親を亡くした少年が周囲の人々に支えられて生きる姿を描いた。鳥居社長らが約3年かけて準備し、昨年10~11月に石巻市を中心に、隣の登米市や内陸の富谷町、大崎市などでロケされた。市民、町民は、ロケ弁やオープンセットの制作で協力し、約570人のエキストラも出演した。戦前に建てられた映画館の岡田劇場や、北上川河口など、石巻市民にとってなじみ深い光景も登場する映画になった。

 3月26日には同市で完成試写会が行われる予定で、4月には岡田劇場で先行公開が決まっていた。しかし、震災と津波に襲われた。岡田劇場は流された。市民の大勢が被災した。鳥居氏は「石巻市民と一緒に積み上げてきたものが一瞬で崩れてしまった」と嘆いた。

 それでも前を向いてすぐに全国を飛び回った。復興期や人との絆を描いた作品であることが人々の心を打ち、秋田、青森、山形などで上映に向けた組織づくりが進み、福岡では5月に無料上映会、7月以降の劇場公開が決定。出演者も動き、俳優林隆三は出演料全額を石巻市に寄付したという。鳥居氏は「支え合う心を全国に広げたい。復興の時にこの映画が役に立てば」と話し、石巻市での上映を思い描いている。【小林千穂】