俳優高倉健(81)が16日、長崎県平戸市の平戸文化センターで主演映画「あなたへ」(降旗康男監督、25日公開)の「凱旋(がいせん)舞台あいさつ」を行った。昨年10、11月に同市内でロケが行われ、高倉が「お世話になった方々にお礼をしたい」と熱望。今回の企画が実現した。高倉が観客の前に姿を見せたのは、2005年(平17)10月22日に東京国際映画祭で行われた前作「単騎

 千里を走る」のワールドプレミア以来約7年ぶりだった。

 高倉は、上映が終わり温かい拍手で包まれたホールに足を踏み入れると、1歩1歩、感触を確かめるように歩を進めた。ステージ中央に進むと右、左と見渡した。エキストラなどで撮影に協力した平戸市民は260人。「久しぶりにこういう高いところに立つので、緊張しています。大変お世話になりました。ありがとうございました」と、ややこわばった表情であいさつした。

 緊張が解けたのは、降旗監督が観客に「僕らと一緒に作った映画としてご記憶していただけたら」と感謝を述べたときだった。高倉は散骨シーンなどを撮影した薄香漁港の船や、どしゃぶりの場面を作るための消防車の手配など、撮影に全面協力してくれた住民に深く感謝していた。40年前に平戸から映画館がなくなり、車で約1時間かかる佐世保市まで行かないと映画が見られないことをロケ中に知ると、「どうしたら見せられる?

 また、お礼に来なきゃな」と配給の東宝のスタッフに自ら再訪を提案した。

 高倉は壇上で、ロケ中に小学生と仲良くなったことを打ち明けた。「小学校、中学校に突然、伺いました。かわいい子と仲良くなったものですから。授業がちょっと騒がしくなりました」。散骨の場面に登場する船を手配した漁師の浜川学さん(44)の息子大くん(12)ら子どもたちと現場で交流し、お菓子をプレゼントした。学さんが後日、大くんを小学校から早引きさせて対面させると「謝りに行かなきゃいけないな」と小学校を電撃訪問し、教師を驚かせたという。

 撮影した建物の隣に住む木山キミさん(88)宅を連日のように訪れては、会話を交わしたことも明かした。休憩場所もない中、休ませてくれたお礼からか、お菓子やサイン色紙をプレゼントしたという。

 高倉は、浜川さんと木山さんとは、東京から手紙や贈り物を送るなど交流を続けているが、住民全員に感謝の思いを届けたかった。贈り物として届けた映画を、ホールの後方から一緒に見た。「試写会で1回しか見ていなかったので、懐かしく見させていただきました。本当に親切にしていただきました」。高倉の顔全体に、笑みが広がった。【村上幸将】

 ◆平戸市

 人口は約3万3600人。面積は約169平方キロメートル。長崎市の出島での貿易前からオランダやポルトガル、スペインなど欧州各国と交易があった。1609年にはオランダ商館が建てられ、南蛮貿易の中心地となった。漁港が26カ所あり水産業が盛んで、全国屈指の漁獲量を誇る天然ヒラメをはじめエビ、サザエなどの水揚げ地として知られる。77年にはロケをした薄香漁港からも見える平戸大橋が開通。