健さんが映画界に伝わる「伝説」をやんわり否定した。高倉健(81)が21日、都内で行われた主演映画「あなたへ」(降旗康男監督、25日公開)の完成披露試写会で舞台あいさつに立った。この日は田中裕子(57)ら共演者も勢ぞろい。85年「夜叉(やしゃ)」以来の共演となったビートたけし(65)から、「撮影現場で決して座らない」などと言われると「全部、たけちゃんの作り話です」と切り返して観客を沸かせた。

 高倉が苦笑した。たけしが自分に向かって右手で敬礼した後、「夜叉」のロケの思い出を突然語り始めたからだ。

 たけし

 オフの日に撮影現場に来るんですよ。雪がものすごいところでストーブにあたりたいんですけど、健さんはあたらない。「あたって下さい」と言ったら「皆さんが働いている時に、僕はあたれません」と言うから、誰もあたれない。寒いし、健さんはずっと見てるし、「お願いですから帰ってくれませんか」と言ったことがあります。

 ユーモアたっぷりに話す口調に場内も笑いに包まれた。

 たけしはさらに続けた。昨年10月、岐阜県高山市で行われた「あなたへ」のロケのことだ。

 たけし

 「健さんは現場で椅子には座らない」と俺がラジオで言っちゃったもんで、ロケで健さんが「あんたのおかげで俺は座れなくなった」と怒ってて。そのくらい現場に気を使う温かい人。ありがたい。

 高倉は、すぐさま切り返した。

 高倉

 訂正します。全部、たけちゃんの作り話です。本当に迷惑してます。

 たけしに負けないユーモアあふれる言葉と口調で再び場内が沸いた。

 軽妙なやりとりを生み出したのは、互いを尊敬し合う心だ。高倉はたけしをコメディアンとして、映画監督としても「頭がきれる人」と尊敬している。監督作も必ず見ており、「いい話があればいつでも出たい」と出演も熱望していた。たけしも「健さん主役で映画を撮るのが夢」と公言しており、岐阜ロケの取材でも「いろいろ考えているんですけど、なかなかこれというのが見つからなくて」と話していた。高倉は、たけしとの10カ月ぶりとなる再会を楽しみにしていたという。壇上で写真撮影中も、話題は尽きない様子で話し続けていた。【村上幸将】