俳優渡辺謙(53)主演映画「許されざる者」(李相日監督、9月13日公開)の完成報告会見が1日、都内で行われた。米俳優クリント・イーストウッド(83)が監督、主演し、米アカデミー賞最優秀作品、最優秀監督賞を受賞した1992年公開同名映画のリメークで、試写を見たイーストウッドも作品を称賛するコメントを寄せた。渡辺はその文面から、日本版がイーストウッドの心に届いたと実感。「本当に頑張ったかいがあった」と感激した。

 イーストウッドからの手紙が読み上げられると、渡辺は手紙が映し出されたスクリーンを凝視した。手紙が届いたことは、この時初めて知り、演技を褒めたくだりでは恥ずかしそうに笑ったが、上を見上げるなど涙を隠すそぶりもあった。披露が終わると拍手し、取材陣を前に「クリントも、日本版の中で自分たちにないものを受け止めてくれた。うれしいし、心に届いたというのは、本当に頑張ったかいがあった」と喜んだ。

 イーストウッドとは、直々に主演を依頼された06年の米映画「硫黄島からの手紙」から固い絆で結ばれている。11年8月に今作の出演オファーを受諾後、イーストウッドのプロダクション「マルパソ」のロブ・ロレンツ・プロデューサーとも緊密なやり取りを続け「クリントは現場の映画人。やるならやってみれば、という感じだったと思う」と師の思いをくみ取った。

 渡辺も直接、映画を届けたかったようだが、自身が6月末までハリウッド版「GODZILLA」の撮影中だった上、イーストウッドが次回作「ジャージー・ボーイズ」の準備で多忙のため断念。配給のワーナーブラザース映画のスタッフが、特別招待が決まったベネチア映画祭用のバージョンをイーストウッドに届け、7月中旬に見てもらったという。

 渡辺自身は、前日7月31日に試写を見て手応えを口にした。「台本の段階で明らかに違うテイストになり『イケるかもね』と確信があった。オリジナルとは違う、僕らが考えた以上にいい作品になった」。同作は、オリジナル作を踏襲しつつ日本テイストを盛り込んでいる。1880年の米ワイオミングだった舞台を、同年の北海道に移し、主人公も復活した老ガンマンから、旧江戸幕府伝説の人斬りに置き換え、歴史観、風土、刀で人を切る痛みなどを表現している。

 昨年9月22日から同11月27日まで行われた過酷を極めた北海道ロケでも、オリジナリティーを高めた。標高900メートルの大雪山の麓で、雪が降り氷点下になる寒さの中、李監督の粘りの演出もあり撮影は早朝から深夜まで続いた。「(俳優を)30年やって外国でも仕事をさせてもらって…もしかしたら一番きつかったかも。肉体も精神も明らかに限界値をスッと超えた」。新たな試みで、新しい映画を作った自信、喜びが満ちあふれた。【村上幸将】